ジャックと先生
「では、これで本日の講義を終わりにします」
先生がニコニコで終わりの挨拶をしているね。
はぁ……
なんとか無事にアカデミーの三日目を終えたよ。
無事に……だよね?
スウィートちゃんの領地とか、エメラルドの採掘権とかをもらったりしたけど……
まぁ今のところ目の前では死人がでていないから良しとしよう。
「ペリドット様、とても分かりやすい勉強方法をわたくしにも教えていただけませんか?」
先生が一番後ろのわたしの席にニコニコしながら歩いてきたね。
「え? 先生に?」
「雨の降り方を分かりやすく絵にしたとか。ぜひ教えていただきたいのです」
「……わたし……絵が壊滅的なの。笑わない?」
「まぁ……ペリドット様にも難しい事があるのですね」
「わたしは元々不器用な小心者なんだよ……」
「ふふ。とてもそうは見えませんが」
悪口じゃないよね?
先生は天然なところがあるからね。
「はい。このノートに描いてあるの。笑わないでね?」
「……! まぁ……これは分かりやすいですね。絵が動くなんて……ノートは、ただ書き写すだけの物かと思っていました」
「勉強が苦手だと、文字にするだけで拒絶反応が出ちゃう時もあるからね」
「なるほど。確かに文字ばかりがズラズラと並んでいたら嫌にもなりますね。他にも何か分かりやすい方法はないでしょうか?」
「うーん。そうだね。先生ごっこはどうかな?」
「先生ごっこ?」
「教壇に立って順番に一人一回講義をするの。そうなると、友達に教える為に分かりやすく講義をしないといけないでしょ? しかも、友達が一生懸命する講義なら真剣に理解しながら聞こうとするだろうからね。自分が先生の立場になって初めて先生の大変さを知る事もできるだろうし」
「なるほど。確かにそうですね」
「テストまでに勉強が好きになるのは無理だとしても、興味は持てるんじゃないかな?」
「ペリドット様……ありがとうございます。わたくしは担任だというのに上手く講義を進められなくて……」
「スウィートちゃんもいたしね。でも、クラスの皆は講義を聞いてくれてはいたんでしょう?」
「はい。とても真剣に聞いているようには見えたのですが……理解できていたかと言えば、そうではないかと」
「皆はまじめだから真剣に聞いてはいたんだよね?」
「はい。ですが……わたくしの教え方の問題です。実力不足で……」
「苦手意識が先に来ちゃって、なかなか講義内容が頭に入らないのかもね。わたしが受けた先生の講義はすごく分かりやすかったよ? 苦手意識さえ無くなればどんどん成績が上がるはずだよ? さっきも、隣のクラスの先生の質問にちゃんと答えていたし。皆のキラキラの笑顔を見せたかったくらいだよ?」
「ふふ。実は先程『素晴らしい学生ばかりだ』と褒められたのです。あの厳しいジャックさんから……(しかも明日は……うふふ)」
「ジャックさん? もしかして、隣のクラスの先生の名前もジャックなの?」
「はい。どこもかしこもジャックさんばかりですよ? ふふ」
「それで先生はご機嫌でニコニコだったんだね」
「かわいい教え子を褒められたのです。これ以上に嬉しい事はありません」
本当に良い先生だね。
「先生……オレ、少しだけど……本当に少しだけ勉強が楽しかったんです。隣のクラスの奴らが難しい問題に答えるオレ達を、驚いた顔で見ている姿に胸がスカッとしたんです。ずっとバカにされていたから……」
「あぁ……ジャック……ジャックはバカではないわ? 誰よりも優しくて心が温かくて正義感があって……絶対に素敵な紳士になるわ?」
「オレが……? えへへ。嬉しいです」
「ジャックだけではないわ? このクラス全員の素晴らしいところを先生は知っているの」
クラスの皆が恥ずかしそうにしているね。
「オレも先生の良いところをたくさん知ってます。いつもオレ達を見捨てないで講義をしてくれて、女性だからって差別されても頑張っていて。先生が他の男性の先生方よりもすごく勉強しているのも知ってます。自慢の先生なんです。オレ達は先生のクラスになれて本当に幸せだと思ってます」
「あぁ……ジャック……ありがとう。頑張ってきて良かった……本当に良かったわ」
先生が泣いているね。
わたしもこのクラスに入れて良かったよ。
さっき合同講義をした隣のクラスの人間は正直嫌いだし。
アカデミーにいられるのもあと二ヶ月か……
考えたら寂しくなっちゃったよ。