ベリアルとジャック(1)
今回はヒヨコの姿のベリアルが主役です。
「ふわあぁぁ……よく寝た……あれ? ジャックが抱っこしてたのか?」
確かぺるみに抱っこされて大講義室に連れて来られたはずだけど。
「ヒヨコ様、お目覚めですか? さっきはすごかったんですよ? ペリドット様が生意気な隣のクラスの奴を懲らしめたんです!」
え?
ぺるみが人間を懲らしめたって……
殺ったのか……
殺ったんだな……
寝てて良かった。
見たくないものを見るところだった。
ぺるみはハデスに育てられたから感覚がおかしいんだよ。
怖い事も平気で言うし。
何人、殺ったんだろう。
怖くて訊けないな。
でも、今訊かないとずっと気になって仕方がないよな。
勇気を出すんだ!
「隣のクラスの生意気な奴は……何人、殺られたんだ?」
あぁ……
怖い……
百人とか言われたらどうしよう。
「とりあえず、一人ですね。抜け殻になってましたよ。いい気味です!」
とりあえず……?
抜け殻って……?
身体と魂が別になったって事か?
やっぱり殺ったのか。
ついに人間を……
ハデスが育てたから、天族なのにあんなに怖くなったんだ。
遥か昔は虫も殺さないような顔をしていたのに……
オレの中のペルセポネ様がどんどん変わっていっちゃうよ。
こんなに変態じゃなかったし、怖くもなかったのに……
優しくて儚げで今にも倒れそうなくらい可憐だったのに。
でも、あの頃のペルセポネ様は、か弱すぎて心配だったから今みたいに頑丈になって安心したかもな。
優しいのは優しいし……でも儚げで可憐なところは微塵も残ってないな。
今はただの、ど変態……か?
「ヒヨコ様? 大丈夫ですか? もう少し眠りますか?」
ジャックがニヤニヤしながら尋ねてきたな……
すっかりぺるみの変態が感染しちゃったよ。
「もう寝ないぞ? ぺるみは? まさか捕まったのか?」
それで、オレはジャックに抱っこされていたのかも。
「捕まった? ん? あぁ……今は次の講義までの休み時間なんですよ。勉強を教えていますよ?」
「勉強? 誰に?」
「クラスの皆ですよ? オレはヒヨコ様を『ねんね』させる係だから静かな端に居ますけどね」
「ねんねさせる係って……赤ちゃんじゃないんだぞ? あ、確かに向こうの端で皆が集まってるな。でも笑ってるぞ? あれが勉強か?」
「オレもこっちから聞いていたんですけど、すごくおもしろいんです。勉強じゃないみたいに教えてくれているんですよ」
「へぇ……まぁ、普段は変態だけど頭だけは良いからな」
あの完璧主義のハデスが育てたから、頭も神力の使い方もかなりのものだろうな。
「さっき……隣のクラスの奴らに先生とオレ達がバカにされたんです。そしたらペリドット様が怒って……空気が振動したんですよ。かっこ良かったなあ」
「は!? それ、殺気だろ!?」
ハデスがよくやるやつだよな。
オレでさえ泣きそうになるのに、かっこ良かった!?
ジャックは怖くなかったのか?
……?
あれ?
でも、どうしてぺるみが殺気を……?
あんなのハデスにしかできないんじゃないか?