今度こそベリアルには幸せになって欲しいから
「はぁぁ……」
ベリアルが悲しそうにため息をついているね。
クラスの皆は先にクラスルームに帰ったし、ヒヨコちゃんの姿のおばあちゃん達とピーちゃんも第三地区に帰ったから今、この木陰にはわたしとベリアルとゴンザレスだけなんだよね。
「気にしなくていいんじゃない? 気づかなかっただけでずっと口の中は、ああだったわけだし」
「うぅ……そうだけど……驚いたんだよ。口の中にあんなギザギザがあったなんて……うぅ……何の役割があるんだ?」
「なんだろうね……」
「はぁぁ……」
「えっと……何か違う事を考えてみたら?」
「違う事?」
「あぁ……うーん。ピーちゃんが帰っちゃったね……とか?」
「ヨータ? そうだ、ヨータとゴンザレスと一緒に遊んだんだ。えへへ。楽しかったなぁ」
「そうなんだね。何をして遊んだの?」
「お出掛けしたり、お絵描きしたり、ゲームもしたんだ」
「ゲーム?」
「フクワライ? だっけ? ノダのじいちゃんが作ってくれたんだ」
「福笑いかぁ。おもしろい顔になった?」
「うん! 帰ったらぺるみもするか?」
「楽しそうだね。皆でやろうよ」
「えへへ。また今度遊びに来るってヨータと約束したんだ」
「ベリアルとピーちゃんは親友なのかな?」
「シンユウ? なんだ? それ」
「親友は……うーん。友達よりも、もっともっと仲良しって事かな?」
「友達より、もっともっと仲良し? ……ヨータはオレを赦してくれたけど……でもシンユウだって思ってくれているのかな?」
「ふふ。今度遊びに来た時に訊いてみたら?」
「……うん。オレ、ヨータと一緒にいると楽しいんだ。シンユウになれたら嬉しいな」
「そうだね。あの……さ。ベリアルとゴンザレスは友達っていうよりは家族だよね?」
「ん? そうだぞ? ゴンザレスは大切な弟だぞ?」
「……じゃあ、わたしは? やっぱり家族だよね? ね? わたしがお姉さんだよね?」
「……お前がお姉さんのはずないだろ? 家族は家族だけど……お前は赤ちゃんだな」
「赤ちゃん!? なんで!? お姉さんでしょ?」
「ヨダレを垂らすから赤ちゃんだ」
「うぅ……確かにそうかもしれないけど……」
「……ぺるみはいいな」
「ん? 何が?」
「家族がいるってすごくいい」
「……そうだね」
「オレ……時々夢を見るんだ」
「夢?」
「うん。よく思い出せないんだけど……真っ暗で怖くて……でも誰かがずっと側にいてくれる夢」
「……そうなんだね」
「大丈夫だよって言いながらずっとオレをあっためてくれるんだ」
「……そっか」
「もしかしたら……お母さん……なのかなって……」
「……お母さん?」
「記憶にはないけど……オレにもいるはずだから」
「……うん。そうだね」
「ぺるみはいいな……ずっとそう思ってたんだ。父親も母親もいて……ばあちゃんも魔王もいるだろ? でも……オレには誰もいないから」
「……ベリアル」
「でも! 今のオレにはいっぱい家族ができたんだ。それが嬉しいんだ。えへへ」
「うん……」
『二つに分かれた魂』のベリアルはずっと不幸で……わたしも生まれ変わる度に死んだし、幸せな生き方ではなかったかもしれないけど家族はいてくれた。
ベリアルに申し訳なくて堪らないよ。
だからこそ、ベリアルを巻き込まずに世界の理との事を解決しないといけないんだ。
今度こそベリアルには幸せになって欲しいから。