世の中には知らない方が幸せな事もあるんだね
「そうでしたか。身分の高いお方は壊れたらすぐに新しい物を用意できますが……我が家はそうではなくて。わたくしの両親も同じような事を言っていました」
先生のご両親も物を大切にしていたんだね。
「素敵なご両親だね」
「はい。自慢の家族です」
「ふふ。先生は家族が大好きなんだね」
「本来でしたら二十も年上の会った事も無いお方と結婚するはずでしたが、わたくしの『講師になりたい』という夢を応援してくれて……感謝しかありません」
「そうなんだね。男尊女卑……って言っていたけど、女性が講師になるって大変じゃなかったのかな?」
「かなり大変でした。女に何ができると散々笑われてバカにされて……ですがどうしても叶えたかったのです」
「幼い頃からの夢だったのかな?」
「はい。わたくしの領地は貧しくて……ですが、巡礼に来てくださる神官様が星の見方や世界の歴史等を優しく教えてくださって。わたくしも子供達に教える講師になりたいと思うようになりました。それからは必死に勉強して……学長はそんなわたくしを認めてくださいました」
「それでこのアカデミーに来たんだね」
「わたくしは……夢だった講師になれたというのに身分の壁に押し潰されて……ですがこれからは理想の講師の姿に近づけるように頑張りたいと思います」
「先生は今でも充分過ぎるほど立派だよ?」
「ペリドット様……ありがとうございます」
「ところで……ヒヨコちゃんの採寸が必要だよね?」
「はいっ! と言いたいところですが……昨日まで抱っこする度にバストウエストヒップ頭周りまで全てをミリ単位で正確にわたくしの脳内に……」
「ちょっと待て! 先生……怖すぎるだろ!? いつの間にそんな事を!?」
ベリアルがあまりの恐怖に怯えているね。
「ヒヨコ様の全てを知りたいのですっ! なんなら内臓もっ!」
おお!
先生はわたしと同じでベリアルの身体の中まで知りたいんだね。
「気持ち悪いを通り越して怖すぎる……」
「ふふふ。さすがに内臓を引っ張り出すような事はしませんよ? ですが……ヒヨコ様のクチバシの中がどうなっているのかが気になります」
「え? クチバシの中? 確かに自分じゃ見えないし……どうなってるんだろうな?」
「では、わたくしが確認いたします。ささ、お口を『あーん』してください」
「うぅ……内臓を引っ張り出されるよりはマシか。あーん……」
わたしもこっそり覗いちゃおう。
ぐふふ。
かわいいクチバシだからきっと内側も超絶かわいいはず。
……?
……!?
何あれ……!?
クチバシの奥……上顎の辺りにギザギザした何かがある!?
食虫植物のアレみたいな……
想像していたのと違うよ!?
「「……!?」」
先生もクラスの皆も絶句しているよ。
あぁ……
……見なければよかった。
ゾワゾワする怖さだよ……
「ん? 皆どうしたんだ? クチバシの中はどうなってたんだ?」
あぁ……
なんて言えばいいんだろう。
「なんだ? そんなに知りてぇんならほれ、じいちゃんのクチバシの中を見ろ」
ええ!?
吉田のおじいちゃん!?
確かに今はヒヨコちゃんの姿だけど……
アレを見たらベリアルが怖がるんじゃないかな?
「うん! どれどれ? うわあぁ!」
ベリアルが震え始めたね。
「どうだった? クチバシの中は、かわいかったか?」
「……見たくなかった。オレのクチバシの中にあんなギザギザがあるなんて……うわあぁぁん! 怖いよぉ!」
……世の中には知らない方が幸せな事もあるんだね。