お別れが辛くなりそうなくらい人間を好きになっていくよ
「男尊女卑か。そうだなぁ。群馬は元々『かかあ天下と空っ風』って言って、女が養蚕で稼いでいて、家で主導権を握ってたんだ。でも、ちゃんと男も大事にするぞ? 虐げるような事はねぇなぁ」
おばあちゃんの言う通りだ。
群馬は女性が強かったよね。
「グン……? そうなのですね。『女は、でしゃばるな』この大国のリコリス王国でさえそのような考えなのに……」
先生が辛そうな顔で話しているね。
クラスの皆も心配そうにしているよ。
「そうなんか?」
「市井ではそうでもないようですが……貴族は、女性が男性と同じように活躍する事は……あの……良くは思われないと言いますか……」
「そうか。……アカデミーに女教師は他にいねぇんか?」
「他にも数人います。このリコリス王国アカデミーは学長が平等の精神を重んじておられるので、まだ良いのですが……他国のアカデミーにはいないようです」
「……生きにくいなぁ。先生は賢いから息苦しいだろう」
「……身分制度に男尊女卑、確かに生きにくいです。ですが……ペリドット様に出会ってから、何かが変わり始めたように思えるのです」
「ぺるみは……何て言うか……アレだからなぁ」
「ふふ。はい。アレですから……自分の殻に閉じ籠っているのがバカらしくなると言いますか」
アレって何?
絶対褒めていないよね……
「ははは! そうだなぁ。ヒヨコを見ながらヨダレや鼻血を垂らす姿は、貴族から見りやぁ驚きしかねぇよなぁ」
「これほどお美しいのに、ヒヨコ様を見つめるにやけきったお顔……初めこそ驚きましたが、ふふっ。がんじがらめになっていた心が解放されていくのを感じています。『淑女は、こうあるべき』という窮屈な小さな箱から一歩外に出られたような……」
「そうか。思いっきり息を吸えた感じか?」
「はい。ですが、現状は何も変わりません。身分制度も男尊女卑も。ただ自分の中で小さな箱の蓋が開いただけ……なのです」
「いや……違うなぁ。先生の中の小さい箱じゃなくて、その小さい箱がこの教室の大きさまで、でかくなったんだ」
「え?」
「見てみろ。教え子の顔を……」
おばあちゃんの言う通りだね。
クラスの皆が心配そうに先生を見つめているよ。
「……っ」
あぁ……
先生が泣き出しちゃったね。
この世界では女性が教師をするのは大変なんだろうな。
「先生……先生が泣いたらオレも悲しくなっちゃいます」
「泣かないでください。うぅ……」
「そうです! こんな時はかわいいヒヨコ様を見て元気を出しましょう」
本当にこのクラスの皆は良い子ばかりだね。
「皆さん……ありがとう……こんなに優しい教え子を……本当に幸せよ」
泣いているけど、先生がすごく素敵な笑顔になったね。
あぁ……
……やっぱり、人間を嫌いになったり虐げるような気持ちにはなれないよ。
もう、この世界の理は機能しなくなっているって言っていたけど、その通りなのかもしれないね。
わたしはどんどん人間を好きになっていくよ。
お別れの時が辛くなりそうだ……
ん?
グレーのヒヨコちゃんの姿の吉田のおじいちゃんが、いつの間にか来ていた学長にがっつり吸われているね。
「くすぐってぇから、やめてくれ……ははは!」
おぉ……
学長はかわいいグレーのヒヨコちゃんを吸っているけど……
わたしの中での吉田のおじいちゃんは、群馬のおじいさんの姿の印象が強いからね。
おじいさんを吸う、にやけきったおじいさん……
うぅ……
ちょっと……
見ていられないね。
「ぷはっ」
もう、また吉田のおじいちゃんはわたしの心の声を聞いたね?
笑わないのっ!




