肖像画を描こう(3)
「そうだね。そうして欲しいから第三地区の皆には秘密にしているんだろうね」
わたしも吉田のおじいちゃんとして接しよう。
「じゃあ、お母様も今まで通り『ヨシダさん』と呼ぶわね? それにしても、ベリアルはカップケーキをおいしそうに食べていたわね。かわいかったわ」
お母様の言う通りだね。
さっき第三地区でわたしが作ったカップケーキを幸せそうな顔をして食べてくれたんだよね。
夢中で食べている間にこっそり、いや、がっつり吸わせてもらっちゃったんだ。
幸せだったなあ。
かなり嫌がられたけど。
「うんっ! ベリアルはすっごくかわいいヒヨコちゃんなの! それにね? 見つけちゃったの……」
「あら? 何かいい物でもあったのかしら? ふふっ」
「うん! あのね? ベリアルの後頭部に……」
「失礼します。完成しました」
ウリエルが額縁に入った肖像画を持って執務室に入ってくる。
「え? もう!? 二十分も経っていないよ?」
「はい。完成しました」
……ウリエルは口数が少ないというか、面倒で仕方ない感じが伝わってくるよ。
やっぱり、幼女にしか興味が無いからかな?
「あ、そうだ。ウリエルは吉田のおじいちゃんがウラノスおじい様だって知っているよね? 渡して欲しいってさっき頼まれたんだ。はい。これ」
封筒を預かっていたんだよね。
中身は、なんだろう?
「ウラノス様が?」
封筒を開けたウリエルが、さっきまでの無表情からキラキラの瞳になった?
何か良い物が入っていたのかな?
あれ?
どうしたのかな?
息苦しいのかな?
ハアハアしているよ。
「……ウリエル? 大丈夫? 何か悪い物でも入っていたの?」
渡さない方が良かったのかも……
「あの……この絵姿は……? どなたですか? というより、この紙はなんですか?」
え?
なんの事だろう?
「え? これって……」
群馬で吉田のおじいちゃんと田中のおじいちゃんが隙さえあれば撮っていたわたしの写真!?
しかも、ウリエルが好きな幼女時代の!?
「ああ! 月海の写真だ! しまった! お父様の撮っていた写真を群馬に置いたままだ! 取りに行かないと! すっごくかわいいんだからっ!」
お父様……
今から仕事だよね?
「あら? ダメよ。ウリエルからも早く仕事をするように言ってちょうだい」
お母様……
たぶんウリエルはもう幼女の事で頭がいっぱいだから無理だよ?
「今すぐ……に……」
あれ?
仕事をさせるのかな?
てっきり群馬に写真を取りに行かせるかと思ったのに。
さすがは神様の補佐官だね。
「ほら、ウリエルも今すぐ仕事をしろって言っているわよ?」
お母様は、早く勉強させたい母親みたいだね。
「違います! 今すぐ置いてきた(幼女の)シャシンとやらを持ってきてください!」
……え?
ウリエル?
さっきまでの無表情で、なにもかも面倒そうだったウリエルとは別人のようだね。
今度は月海の幼女時代フィギュアを作るのかな。
瞳がキラキラ輝いているね。
手がかかるお父様の補佐官だから、フィギュアを作ってストレス発散しているんだろうね。
かわいそうに。