聖女を取り返す方法か……
「あ、それとね? 保存されている聖女を助け出す事にしたの」
「ついにそうなりましたか」
ベリス王が真剣な顔になったね。
「今、聖女が保存されていると知っているのはデッドネットルとマグノリアの王だけなの。二人を連れて聖女の棺を開けてみようかと思うんだけど……第三地区の皆はどう思う?」
「そうだなぁ……それが一番手っ取り早いだろうけどなぁ……リコリスとアルストロメリアの王様にはこのまま秘密にしておくんか?」
おばあちゃんの言う通りだね。
「それなんだよね……」
「そんな事しなくてもハデスに記憶を消してもらえばいいんじゃない?」
おぉ……
服がボロボロになったお父様がいつの間にか帰ってきているね。
あれから更に酷い目に遭ったんだね。
「お父様……無事だったんだね」
「うぅ……もう少しで赤ちゃんドラゴンに食べられるところだったよ」
思った通りだよ。
って言うより右足のズボンの裾が引きちぎられたっぽく無くなっているけど……
確実に右足に食いつかれた跡だよね?
それとも裾だけ噛みつかれた?
……今はその話じゃないか。
「確かに……記憶を消せば一瞬で終わるよね。でも、きちんと納得したうえで終わりにして欲しいの。人間には記憶を消す力は無いでしょう? 人間らしく終わりにしたいの」
「人間らしく? ふぅん。よく分からないや」
「そうだね。正直、記憶を消してもらえば簡単だよ? でも……それじゃぁ、聖女がかわいそうだから。初めから全部無かった事にされたら今までひとりぼっちで隠されていた聖女がかわいそうすぎるから。記憶を消しても過去が変わる訳じゃないんだよ。だから、ちゃんと終わりにしてあげたいの」
「ちゃんと終わりにする? ……?」
「お父様は、もしわたしが拐われて死んだ後に腐ったまま埋葬されずに放置されたらどう思う?」
「え? それは……イヤだけど……」
「聖女は……わたしの魂の子孫なの。だから……絶対に助けたいの」
「ペルセポネ……分かったよ。ペルセポネは聖女を助けたいんだね? じゃあ、お父様が今から行って助けてくるよ!」
「ゼウスは何もしないで!」
お母様もドラゴンの島から帰ってきたんだね。
「ええ? だって空間移動で聖女の棺を持ってきちゃえばいいんでしょ?」
「もう! それだとデッドネットルとマグノリアが戦になるのよ! お互いが聖女の棺を盗んだと思ってね? 他国に戦の理由を知られる訳にはいかないからその戦はどちらかの国が消滅するまで続く事になるわ」
「え? 別にそうなってもペルセポネは困らないよ?」
「ゼウス……あぁ……ペルセポネが困る困らないの問題じゃないのよ。大国が戦を始めれば国の均衡が……」
「難しくて分からないよ」
「あぁ……そうね……」
お母様が困り果てているね。
わたしから話してみよう。
「お父様? もし戦になったら……わたしは悲しいよ。毎日泣いちゃうよ。辛くて天界に泊まりに行けなくなっちゃうかも……」
「ええ!? それはダメっ! ペルセポネが泣くのはダメだよ! それに三日に一回泊まりに来てくれるのだけが楽しみなんだからぁ! 分かったよ……棺を持って来るのをやめるよ」
良かった。
一応納得してくれたみたいだね。
「ありがとう。お父様……聖女の事は見守っていて欲しいな。お父様はいてくれるだけで心強いから……だから、聖女を幸せの島に埋葬するまで見ていて欲しいの。それで、埋葬したらお母様に桜の木を植えてもらって毎日お花見しよう?」
「うわあぁ! 毎日お花見!? やったぁ!」
「お父様は毎日神様として頑張っているからね。お花見をして癒されて欲しいの。聖女も今までは静かな場所にひとりぼっちだったからきっと賑やかになって喜んでくれるはずだよ?」
「うん! えへへ。早く幸せの島に埋葬してあげてね?」
「……そうだね」
やっぱりお父様は家族以外には興味が無いんだね。
周りが気をつけてあげないと大変な事になりそうだよ。