天族は卵から産まれるんだね
「あのさ……まさかとは思うけど……この卵の中に桃の木が入っているって事かな?」
卵から木が産まれるって事?
「そうよ? ペルセポネは知らなかったのね。創造物は卵から孵るのよ?」
……お母様?
よく分からないよ……
「卵から? 雛みたいに?」
「うーん。そうね……その方が創造しやすいというか。例えば、ペルセポネが神力を使う時に、傷を治したいと願うと治癒の力を使えるでしょう?」
「うん。ハデスが『じいじ』だった時に教えてくれたよ? 魔力は力を使い終わった時の事を想像すると使えるって」
「そうね。それと同じよ? 卵の中に創りたい物を創造するの。その方が天族には創造しやすいのよ」
「天族には創造しやすい?」
「あぁ……そうだったの。ペルセポネは天族の出産は人間と同じだと思っていたようね。ハーピーは卵を産んだでしょう? その卵を割ってハーピーちゃんが出てきた。人間は卵には入らず産まれるのよね?」
「うん。卵から産まれてくるのは哺乳類以外だって習ったよ? あれ? でも、この世界は違うのかな?」
「グンマでは、そう習ったのね。ふふ。懐かしいわね……ペルセポネもかわいい卵で産まれてきたのよ?」
「え? わたし……卵で産まれたの!?」
「ふふ。そうよ? 人間は翼が無いから卵に入らないのかしらね? よく分からないけれど……天族は皆卵で産まれるのよ? だから卵から孵らせる方が創造しやすいの」
「天族は卵から孵るんだね……」
かなりの衝撃だよ……
わたしもいつか卵を産むんだね。
前の世界の人間の常識はこの世界じゃ通じないのは分かってはいたけど、まさかわたしが卵を産む事になるなんて……
不思議すぎて実感が湧かないよ。
「出産時に途中で翼が引っ掛かったら大変でしょう? 卵ならツルンと出てくる……と言いたいところだけれど……あの痛みは……かなりのものだったわ? 初産だから、卵詰まりをしてね」
「らんづまり?」
「途中で卵が出てこなくなってしまったの。あの時は、あまりの苦しさに失神しそうになったわね」
「失神!? 辛い思いをさせてごめんなさい……痛かった?」
「ふふ。謝る事はないのよ? でも……痛くて苦しくて……その後に、産まれたばかりのかわいい卵を見て思ったの。痛みなんて吹き飛ぶくらいに『愛している』と」
「お母様……」
「ヨシダさん……ありがとう。魂の無かったペルセポネに、魂を与えてもらえなかったら……わたしの大切なペルセポネは卵から孵る事は無かった……本当にありがとう」
「デメテル……そうか、そうか」
吉田のおじいちゃんが悲しそうに微笑んでいるね。
色々あったから……
おじいちゃんも辛かったよね。
「わたしも、ヨシダさんと同じだったから……気持ちはよく分かるわ。ペルセポネの魂をグンマに逃がした時のあの気持ち……何とかして娘を『生かしたい』と願ったあの想い……ヨシダさんも同じ気持ちだったのね」
「デメテル……」
「ヨシダさん……本当にありが……え?」
……?
お母様?
どうかしたのかな?
何かに驚いている?