ハデスと天界の部屋で(3)
「ちょっと……この扉は、もろいのね。少し触ったら壊れたわよ?」
ヘラは自分が怪力だって知らないんだった……
「うわあぁん! やっぱり孫は欲しいけどこんなのはイヤだよぉ!」
「ゼウスはうるさいわよ! わたしは『おばあちゃま』って呼ばれたいのよ!」
お母様とお父様は孫が欲しいんだね。
「お前達……それぞれの宮に帰れ……今すぐだ……」
……!?
ハデスが静かな声で怒っている……
これは危険だよ。
「うわあぁ! ハデスが本気で怒ってるぅぅ! 怖いよぉ!」
お父様……
神様なんだよね……
走って逃げたね。
「ふふ。じゃあ、わたし達も帰りましょう? 邪魔したわね」
ヘスティアが皆と帰っていくね。
「扉はお母様が直すから……ふふ。仲良くね?」
お母様はニコニコだね。
「……やれやれ。全く……」
ハデスの怒りは収まったかな?
というよりは恥ずかしかったみたいだけど。
「ふふ。天界も第三地区みたいに賑やかだね」
「……ペルセポネ……では……続きを……ん?」
え?
ハデスはどうかしたのかな?
「あ! 吉田のおじいちゃん! まだいたの!?」
「『まだいたの』なんて……じいちゃん悲しい……ぐすん」
「あぁ……そういう意味じゃなくて……ごめんね」
「ぺるぺるに会いたがってる奴を連れてきたぞ?」
「え? わたしに? 誰?」
「ほら、こいつだ」
こいつ?
ん?
おじいちゃんが抱っこしている真っ白いウサギみたいなかわいい生き物は……
「うさちゃん!?」
目が覚めてカーバンクルの姿に戻ったんだね!
ずっとわたしを見つめているけど……
確かうさちゃんはお話できないんだよね。
鳴き声とかも聞いた事が無かったけど……
「うさちゃん……わたしが分かる? あ!」
うさちゃんがわたしの腕の中に飛び込んできたね。
「じゃあ、じいちゃんは第三地区に戻るからなぁ。ハデスちゃん……うさちゃんはぺるぺるの大事な家族だからなぁ。殺したらダメだぞ?」
「ああ! ヨシダのおじいさん! カーバンクルを置いていかれたら困……」
「ハデスちゃん……がんばれ!」
吉田のおじいちゃんがニヤニヤしながら帰ったね。
「ハデス? 大丈夫?」
「え? あぁ……大丈夫だ……」
「うさちゃん、久しぶりだね。あの時は怖い思いをさせてごめんね?」
わたしがファルズフに刺されて怖くて飛び出したのかと思っていたけど、わたしの怪我を治す為に冥界のケルベロスを呼びに行こうとしてくれたんだよね。
あ……
かわいい頭をわたしの胸にスリスリしているね。
会えて嬉しいって言っているみたいだよ。
「うさちゃん……これからはずっと一緒だよ?」
わたしを見上げる、うさちゃんの宝石みたいな綺麗な赤い瞳がキラキラに輝いているね。
喜んでくれているのかな?
「……カーバンクル、お前は……あの頃のようにわたしとペルセポネの間に入って眠るのか?」
ハデスが困った顔をしているね。
確かに冥界で暮らしていた時は間に入り込んで気持ち良さそうに眠っていたけど……
「……ソシスル」
え?
今のってうさちゃんが話したの!?
初めて話す姿を見たよ?
「カーバンクルよ……猫かぶりをやめるのだな」
え?
ハデス?
うさちゃんが話せる事を知っていたの?
「ゼッタイ、オマエニハ、ワタサナイ!」
「ほぉ……残念だな。わたしもペルセポネをお前には渡さないぞ」
ハデス!?
うさちゃん相手に本気で怒っているみたいに見えるよ?
冥界にいる時もこの二人はずっとこんな感じだったの?
全然気づかなかったよ。
まさか……これから大変な日々を過ごす事になるんじゃ……
不安になってきたよ。