ハデスと天界の部屋で(2)
「今でも覚えている。初めてハイハイした時、フラフラと進みながら『やっと動ける』と言って……魚族長に会いに行ったな。あの時の魚族長の嬉しそうな顔は今でも忘れられない」
ハデスが懐かしそうに話しているね。
「あの頃の魚族長は陸に上がれなかったから、ずっと寂しそうに家を眺めていたの。だから真っ先に会いに行ったの。今ではすごく嬉しそうに陸にいるよね」
「そうだな」
「ハデスのお陰だよ? ありがとう」
「……誰かに感謝されるのは、なんと言うか……慣れないな」
「ふふ。ハデスは恥ずかしがりやさんなんだね」
「そうか……ペルセポネ、わたしは……今すぐにでも子が欲しい……ペルセポネとの子が……」
「……うん。わたしもだよ?」
「どんな容姿でも、わたしはその子を愛するだろう……だが、時々恐ろしくなるのだ」
「……? 恐ろしくなる?」
「もし、数千年前に冥界でペルセポネとの子を授かっていたとしたら……その子が魔族のような姿をしていたら……わたしもヨシダのおじいさんやポセイドンのようにその子を捨てていたかもしれないと……」
「……ハデス?」
「わたしは……魔族に……ヴォジャノーイ族になれて良かったと思うのだ。妹や甥を心から愛したから……わたしは魔族の姿を少しずつ受け入れる事ができたのだ」
「素敵な妹さんだったんだね。ヴォジャノーイ王もすごく素敵だよね」
「あぁ……だが、美しい『ルゥ』にはヴォジャノーイ族の姿のわたしは不釣り合いだと思い込んで……そんな時『ルゥ』は言ってくれた。わたしの瞳が優しくて大好きだと」
「うん。じいじの瞳はいつもわたしを優しく見守ってくれていたから」
「どんな容姿でも、わたしは子を愛する。二人で大切に育てよう」
「うん。あ、そういえばさっきお母様が赤ちゃんの授かり方を教えてくれるって言ったんだけど吉田のおじいちゃんが来て話が途中になっていたんだ」
「……そうだったのか」
「ハデスは知っているの?」
「……ああ。そうだな。知りたいか?」
「うん! 知りたい!」
「……では……教えよう」
「うん!」
やっと赤ちゃんをお腹に入れる方法を教えてもらえるんだね。
「(ああ! ダメだ! 押すな)」
「(ちょっと……見えないわよ? 鍵穴を広げようかしら)」
「(そんな事をしたらばれちゃうよ。あぁ……かわいいペルセポネが……お父様の宝物さんのペルセポネが……)」
「(もう! 『おじいちゃま』って呼ばれたいんでしょう? 我慢して)」
「(ふふ。覗き見は楽しいわね)」
……扉の外から皆の声がするね。
「なぁんだ。やめちまうのか? ハデスちゃんたら意気地無しちゃんっ!」
え?
吉田のおじいちゃん!?
「いつの間に部屋に入ったの!?」
「え? そうだなぁ。最初からいたぞ?」
すごくニヤニヤしているね。
「最初から……!」
ハデスが真っ赤になっているね。
どうしたのかな?
「もう! ハデスちゃんたら意気地無しなんだから! ……じいちゃんは早くハデスちゃんとぺるぺるの子に『おじいちゃま』って呼ばれたいんだよなぁ。困った困った」
「ああ! ヨシダさんったらずるいわ! わたしも近くで見たい!」
「あぁ……ちょっと……ヘラ、そんなに強く扉を押したら……」
……!?
扉が割れた!?
ヘラの怪力で割れたの!?
扉に触っただけだよね!?




