人魚の海域(11)
「ハデス? 魔王の島の隣にこの島が移動しても平気なのかな?」
ヴォジャノーイ王は優しいけど、やっぱり問題になるんじゃないかな?
「大丈夫だ。あの辺りもヴォジャノーイ王国の領海だからな」
ハデスが優しく笑っているね。
「そう。良かった。皆、聞いて欲しいの。今からこの島が動くんだけどかなり揺れるらしいの。ベリアルかお父様、ここにいる皆を空間移動してもらえないかな?」
「お父様がやる! お父様がやるよ! だから殴る約束は無しにして? ね? お願いぃぃ!」
これが神様……
これがお父様……
「お父様……切実だね」
「あら、それはダメよ? 第三地区の皆さんに迷惑をかけたからその罰で殴られるのよね? 絶対に一発は殴られないとダメよ?」
お母様……
笑っているけど、そのせいでさらに怖いよ。
「ううぅ……痛いの嫌だよぉ」
「仕方ないなぁ。オレが移動させてやるよ。帰ったらカップケーキが待ってるんだっ!」
ベリアル……
わたしはまだ作るとは言っていないよ。
でも、ベリアルがこの人魚の島に空間移動をしてくれたから人魚達も外の世界に出る気持ちになってくれたんだよね。
確か材料はあるはずだから、かわいくておいしいカップケーキをいっぱい作ってあげよう。
かわいいカップケーキと超絶かわいいヒヨコちゃん……
想像しただけで興奮してきたよ!
「え? なんだ? 雨か? って、うわあぁ! ヨダレ、ヨダレ! 気持ち悪っ! 身体に付いた!」
しまった。
やっちゃった。
って……え?
ベリアルの頭に……
「うわあぁん! 汚いよぉ! 早く家に帰ってお風呂に入りたいよぉ!」
あぁ……
ベリアルが飛んで逃げちゃったよ。
でも、さっき見えたあれは……
「人魚達! 近くに寄れ! 空間移動するぞ! 目を閉じろ!」
ハデスが叫ぶと人魚達が島に掘られた水路に入って近づいて来る。
「うわあぁ! 眩しい!」
あ、人魚に目を閉じてって言い忘れたよ……
こうして目を開けると第三地区に戻ってきていた。
良かった。
皆、無事に空間移動できたみたいだね。
わたしがベリアルを焦らせちゃったから失敗するかと思ったよ。
失敗すると身体が二つに裂けちゃうんだよね。
「うわあぁん! ばあちゃん、お風呂お風呂ぉ!」
「ははは。そうか。今すぐ魔法石で、たらいにお湯を入れてやるからなぁ」
「ぺるみ! おいしいカップケーキを作らないと赦さないからな!」
……!
おいしいカップケーキを作らないと赦さない?
かわいいっ!
生意気なところが最高にかわいいよ。
しかもカップケーキで赦してくれるんでしょ?
あぁ……かわい過ぎて興奮してきたよ!
「ほら、ベリアル? お風呂に入れ。ベリアルの好きなちょっと熱めのお湯だぞ?」
「やったぁ! ばあちゃんありがとう! はあぁぁ……気持ちいいなぁ」
たらいのお風呂に入るヒヨコちゃんが、かわい過ぎるよ。
でも、さっき見たのって……
「ぺるみ! カップケーキは!? 早く作れよ!」
くぅぅ!
生意気なヒヨコちゃん……
堪らないね!
今すぐ吸いつきたいけど我慢我慢。
カップケーキを作らないと本気で嫌われちゃうからね。