人間の世界も色々あるんだね
「わたしも一緒に? ありがたいお話ですが、わたしには公爵として陛下を支える役割がありますので」
公爵はきちんと仕事をして偉いね。
おじいちゃまとは大違いだよ。
「そうかぁ……残念だなぁ。カサブランカちゃんは来てくれるよね? ね?」
本当に、おじいちゃまは子供みたいだね。
「もう……仕方ないわね。わたくしがいないと、また余計な事をしでかしそうだし……分かったわ」
おばあ様が呆れながら……でも、嬉しそうに話しているね。
本当はおじいちゃまが大切なんだね。
「あの……今の話……ココは海賊だったという事なのかな?」
やっぱりレオンハルトは知らなかったんだね。
「この話はシャムロックでも、一部の者しか知らないの。内密に頼むわね?」
おばあ様が真剣な顔で話し始めたね。
「ココちゃんのおばあ様は、わたくしの義理の姉なの。数十年前にとある国に酷い目に遭わされて海に投げ捨てられたのよ。それからすぐに無事だと知らせは来たのだけれど、連絡が途絶えてしまって。ココちゃんが姉上からの手紙を持って現れた時には驚いたわ。しかも、ヘリオスとルゥ……ペリドットちゃんの出産のお手伝いをしてくれた『命の恩人』でもあったの」
おばあ様も過去の出来事を全部知らされたんだね。
でも、お兄様とルゥが、ココちゃんのおばあさんの孫なのは知らないんだよね?
「ヘリオスはココちゃんの弟として海賊の島で育ったの。二人はお互いを大切に想っていて、ヘリオスがリコリス王国に帰る時に約束したの。『必ず迎えにくるから』とね。その時の為にココちゃんはシャムロックの王妹として養女になったのよ? 地位がなければ王妃にはなれないでしょう?」
「え? 王妹? 王女じゃなくて? おかしくない?」
おじいちゃま……
世間的には、もうおじいちゃまは王様じゃなかったみたいだね。
アカデミーでもココちゃんは王妹殿下って呼ばれていたし。
「仕方ないわよ。あなたが遊び回っていた事は周知の事実なのだから。王位を譲ったと思われて当然よ」
「そんなぁ」
「『そんなぁ』ではないわ? あなたが執務から逃げるから、わたくしがずっと代わりに……どれだけ大変だった事か!」
「だって……執務とか難しいし……」
「だってじゃないの! もう!」
おばあ様は本当に苦労してきたんだね。
大変だっただろうな。
「アンジェリカ、この件は誰にも話してはいけない。分かるな?」
「はい。おじい様」
アンジェリカちゃんと公爵は秘密にしてくれるみたいだね。
「わたしも誰にも話しません。……マクスもリュートも秘密にしてくれるか?」
レオンハルトが二人にお願いしてくれているね。
「もちろんです! 海賊だったなんてかっこいいですね」
マクスは相変わらずだね。
「決して口外しません」
リュートは真面目なのが見て分かるよ。
「ありがとう。でも……レオンハルトはどうして突然アカデミーに?」
ココちゃんが尋ねているけど……
確かにその通りだよ。
「……それは、王妃が無理矢理入学手続きを済ませてしまって」
王妃?
確か、レオンハルトとルゥの母親は姉妹で、ルゥの母親はリコリス王国の側室に、レオンハルトの母親は四大国ではないそれなりの大国に側室として迎えられてから王妃になったんだよね?
レオンハルトの母親が亡くなって、もう一人いた側室が王妃になったらしいけど……
「無理矢理……あの王妃ならばやりかねないわね。レオンハルト……辛ければこのままおばあ様と共に船旅に出てみない? 王妃は、きっと良くない事を企んでいるはずよ?」
そういえば、初めてレオンハルトに会った時、王妃に無理矢理『死の島』と呼ばれていた『幸せの島』に来るように仕向けられたって言っていたよね。
人間にとっては、ほぼ死刑宣告だよ。
実際、魚族に襲われて死にそうになっていたし……
王妃がレオンハルトを消そうとしているのは分かりきっているよ。
王様である父親はどうして黙って見ていたんだろうね。
酷すぎるよ。
ココのおばあさんが海に落とされた時の事を魔族が話しているお話は
第百二話、百三話『ドロドロの恋愛話? ~前後編~』に、
アルストロメリア公爵の視点で書いたお話は
『幼馴染みのガサツな侯爵令嬢は魔物を一撃で倒すほど強いと判明したので怖くて逆らえないし、恋心を抱くなんて絶対にあり得ません』の第四話『普段ガサツな幼馴染みが好きな男の前では乙女になる姿に絶句する』にあります。