人魚の海域(10)
「……オレもだよ。魔法石じゃなかったけど闇に近い力でかなりしごかれたんだ。息を吸うのを忘れるくらいだったぞ?」
抱っこされているベリアルも震えているね。
震えるヒヨコちゃんもかわいいっ!
優しく抱きしめる振りをしながらもっと激しく吸おう。
「ベリアルもなの!? うぅ……生きていてくれてありがとう。スーハー」
「我々もです。あの鍛錬は思い出しただけで身体が震えます」
ヴォジャノーイ族のおじちゃん達……
だから、すごく強いんだね。
お互いよく生きていたよ。
「「「うわあぁん!」」」
人魚達とヴォジャノーイ族のおじちゃん達とベリアルが地獄の鍛錬を思い出して震えながら泣いていると、第三地区の皆が話しかけてくる。
「人魚達? わりぃんだけど魔法石で温かい滝を作ってくれよ」
「さっきの火で今度は焼きリンゴを作りてぇんだ。もう一回火を出してくれよ」
「さっきの氷でもう一回腰を揉んでくれよ」
……第三地区の皆。
相変わらずだね。
魔族の人魚もヴォジャノーイ王も魔法石の攻撃に震え上がっていたっていうのに……
でもあの時は鍛錬だったからハデスも生きるか死ぬかのギリギリのところまで攻撃してきたんだ。
今とは使い方が違うのか。
第三地区の皆は生活の為に使っているし。
「我らがこの島に引きこもっている間にこれ程人間が強くなっていたとは」
「魔族が人間に負けてもいいのか?」
「このままじゃダメだ!」
「そうか、そうか。もう何千年も閉じこもっていたからなぁ。そろそろ、島から出たらどうだ? もう、人魚の不老不死の伝説なんて誰も信じてねぇさ」
吉田のおじいちゃん……?
もしかして、人魚が引きこもっているのがかわいそうで無理矢理この島に入って来たの?
あぁ……
やっぱり吉田のおじいちゃんはすごい人だ!
尊敬するよ。
(裸にさえならなければ)
「でも……この島から出たら……」
「やっぱり不安だ」
「ずっとここにいたから……」
そうだよね。
人魚達は心配だよね。
「じゃあ、第三地区の隣にでも来たらどうだ? 魔王の島も隣にあるしなぁ」
吉田のおじいちゃん……
そうだね。
魔王城の隣なら安心かも。
でも、人魚達はヴォジャノーイ王に保護されているんだよね?
勝手に決めて平気なのかな?
「え? あの優しい魔王様の……? でも……この島から離れるのは」
「そうだな。ここまで開拓したしな」
「大丈夫だ。ぺるぺる、水の精霊のネーレウスを呼び出してくれ」
吉田のおじいちゃんは、ルゥが精霊と契約していたから力を使えていたっていう事は知っているはずだけど……?
「わたしはもうルゥの身体じゃないから手についていた契約印が無いの。だから呼び出せないんだよ?」
「んん? そうか? 一回心の中で呼んでみろ」
……吉田のおじいちゃんの言う事はいつも正しいから。
やってみようかな?
(おじいちゃん……ネーレウスのおじいちゃん)
(どうした? 水の力が必要か?)
(え? 契約していないペルセポネの身体なのにどうして?)
(精霊にも心がある。かわいい娘のようなぺるみの望みを叶えたいと思うのは当然の事だ。……わたしは水だ。この世界の半分は海や川だ。水のある所ならわたしはどこにでもいる)
(どこにでもいる? いっぱいいるっていう事?)
(ははは! おもしろい事を……まぁ、好きに考えればいい)
(好きに?)
(そうだ。真実は知らない方が幸せという事もある)
(……? おじいちゃん?)
(さて、何を望む?)
(え? あぁ……あのね? この人魚の島を第三地区の隣に移動できるかな?)
(簡単な事だ。だが移動中は島が揺れるからな。そのヒヨコか空の神にでも頼んで空間移動してもらえ)
(……うん)
ネーレウスのおじいちゃんはいつもわたし達を見ているのかな?
だから、色々知っているのかな?
わたしの事もぺるみって呼んでいるし。
あれ?
空の神って言った?
(ぺるみ……)
(……? うん?)
(いつか全てが分かる時がくるだろう。その時までは深く考えなくていい。もうひとつ言っておこう)
(もうひとつ?)
(今までよく頑張った)
(え? それって……?)
(さぁ、島が動き出すぞ?)
(おじいちゃん?)
(……)
もうどこかに行っちゃったのかな?
でも、今から島が動くんだよね?
っていう事は今もここにいるんだ。
ネーレウスのおじいちゃんは何かを知っている?
何を……?