アカデミーを辞めるまであと二か月か
「あぁ……ペリドットちゃん、帰ったのね。大丈夫だったの?」
おばあ様とアルストロメリア公爵もベリアルの講義を見ていたんだったね。
「うん。わたしは平気だよ? おじいちゃまは疲れて寝ちゃったから白いヒヨコちゃんがタウンハウスまで空間移動してくれたよ?」
「まぁ、そうだったの? 急いで帰らないと逃げ出しているかもしれないわね」
「え? 逃げ出す?」
おじいちゃまは信用されていないんだね。
「夕方にタウンハウスで待っているわね? ペリドットちゃん、怪我が無くて本当に良かったわ」
おばあ様がわたしを抱きしめると公爵とタウンハウスに帰っていったね。
もしかして、わたしを心配して待っていてくれたのかな?
「じゃあ、わたしも帰るわ」
ヘラも帰るんだね。
「うん。白いヒヨコちゃんもありがとう。助かったよ」
「ふふ。困った時にはいつでも呼んでね」
あぁ……
本当にありがたいね。
いつも皆に大切にしてもらえて幸せだよ。
「じゃあ、オレ達もクラスルームに帰りますか。ヒヨコ様、オレに抱っこさせてくれませんか?」
おぉ……
ジャックが自然な流れでベリアルを抱っこした。
「ジャックはすごいよ。すごく自然にヒヨコちゃんを抱っこしたね」
「へへ。オレには年の離れた弟が二人いるんですよ」
「へぇ、だからそんなに抱っこが上手いんだね」
「早く長期休みになって欲しいです。大きくなっただろうなぁ。少し会わないとすぐに大きくなるんです」
「ふふ。小さい子はすぐに大きくなるからね。ジャックは卒業後は領地に戻るの?」
「跡継ぎじゃないから、就職先を見つけないといけないんです。跡継ぎ以外は領地から出ないといけなくて」
「そうなんだね」
跡継ぎじゃないと将来はどんな仕事をするんだろう?
「……あの。長期休み前の『四大国のアカデミー魔術科対抗魔術戦』が終わったら……ペリドット様はアカデミーを辞めると聞きました」
「え? あぁ……そうなんだよ。今も無理を言ってアカデミーに通っていてね。お兄様の婚約者誘拐事件が解決したらすぐに辞めるつもりだったの。でも、学長と『四大国のアカデミー魔術科対抗魔術戦』に出るって約束したから、それまでは通う事になったんだよ?」
「もうすぐお別れなんですね」
「……そうだね。まだ会って二日目だけど、お別れが今から寂しいよ」
「もう少しだけ長くできませんか?」
「ごめんね……」
「じゃあ、皆で旅行でもしませんか? 『四大国のアカデミー魔術科対抗魔術戦』が終わった翌日から長期休みに入ります。一泊くらいでクラスの皆と……どうですか?」
「……あぁ、どうかな……家族に相談してみないと……」
「そうですか……」
せっかく誘ってもらったけど……
これ以上家族に迷惑をかけられないよ。
「……ぺるみはどうしたいんだ?」
え?
ベリアル?
「あ……わたしは……でも……今も皆に迷惑をかけているし……これ以上は……」
「お前は本当に、気を遣い過ぎだ。皆、お前が旅行したいって言えば張り切って準備するような奴らだろ?」
「……でも」
「じゃあ、日帰りで……『四大国のアカデミー魔術科対抗魔術戦』の前に旅行したらどうだ? これなら問題ないだろ? お前の事だから日帰りじゃないと『三ヶ所の泊まる日のどこを旅行する日にするか』で迷うだろ? オレが空間移動してやるから、日帰りで行こう。これならどうだ?」
確かに天界と冥界と第三地区で夜を順番に過ごす事になったからね。
どこに泊まる日を旅行の日にするかで迷ったはずだよ。
「ヒヨコちゃん……うん。ありがとう。わたし、帰ったら皆に話してみる!」
「そうだぞ? 皆お前の望みを叶えてやりたい奴らなんだから、話したら喜ぶぞ?」
本当にベリアルは優しいね。
いつもは『ぺるみは変態だ』って怒るけど、困った時にはさりげなく助けてくれるんだ。
わたしの半分か……
遥か昔にわたしとベリアルはひとつだったんだね。