人魚の海域(9)
「よし! 次は水だ!」
……人魚達が泣きそうな顔をしているね。
数千年ぶりのお客さんにワクワクしていたのに。
かわいそうになってきたよ。
「おぉ! 次は水か! 火で身体が火照っていたからちょうどいいなぁ」
「滝みてぇにして打たせ湯みてぇにできねぇか?」
「さっきの火の石を使えばできるだろう」
「焼き芋が焼けたぞ?」
おぉ……
第三地区の皆は地獄の鍛錬の島の大量の魔法石を持ち帰って使いこなしているからね。
滝みたいな打たせ湯か。
いいね。
わたしもやりたいよ。
「うまああぁぁぁい! 焼き芋がウマウマだぁ!」
……!?
ベリアル!?
なんてかわいいヒヨコちゃんなの!?
つぶらな瞳がキラキラ輝いているよ?
うぅ……
しまった。
ベリアルが創ってくれたハデス(毛玉の姿)にそっくりなぬいぐるみだけじゃモフモフが足りなくて……うぅ。
発作が起きそうだ。
……ベリアル、ごめんっ!
背後から抱き上げると後頭部に吸いつく。
「うわっ!? なんだ?」
「えへへ。ちょっとだけ吸わせてよぉ。発作が起きそうなんだよ。スーハー」
「はぁ!? やめろよ! ハデスが怖いんだから!」
「ふふふ。やめないよ! もう少しで吸い終わるから! スーハー」
「何を吸い終わるんだよ!? 脳ミソか? 脳ミソなのか!? うわあぁ! ハデスが見てるぅぅ!」
「ベリアル……永遠に眠りたいようだな」
「はぁ!? どう見てもオレは嫌がってるだろ!? 悪いのはぺるみだろ!?」
「えへへ。ハデス、ベリアルが良い匂いなの。スーハー」
「やめろぉ! これ以上ハデスを刺激するなあぁぁ!」
「……やはり永遠に眠らせるか」
「うわあぁん!」
「おい……この気配」
「ああ、間違えるはずがない」
「絶対に前ヴォジャノーイ王だ……」
「まずいぞ。さっき攻撃しちゃったよな?」
ん?
人魚達がハデスが前ヴォジャノーイ王だっていう事に気づいたみたいだね。
スーハースーハー……
かなり慌てているね。
「まぁまぁ、ハデスちゃん。落ち着け。ハデスちゃんが毛玉の姿になればいいんだからなぁ」
吉田のおじいちゃんはいつも的確だ。
裸にさえならなければ最高なんだけど……
「そうだよ! ハデスが吸われろよ!」
必死なヒヨコちゃんもかわいいっ!
逃がさないよ?
まだ吸うんだから!
「ダメだ。毛玉の姿ではペルセポネを魔法石の攻撃から守れないだろう。天族の姿の方が俊敏に動けるからな」
ハデスはいつでもわたしを大切にしてくれるね。
スーハースーハー……
「あの……あなた様は……まさか」
人魚達が震えながらハデスに話しかけているね。
やっぱり厳しい鍛錬をされたんだね。
「そうだ。わたしは前ヴォジャノーイ王だ。お前達はわたしに攻撃を……」
「ごめんなさあぁぁあい! お赦しくださいぃぃ!」
「命だけはぁぁ!」
あぁ……
かわいそうに……
ハデスが怖いんだね。
わたしとヴォジャノーイ王が受けてきた鍛錬をこの人魚達も乗り越えてきたんだよね。
「あのね? 人魚達……わたしも魔法石の地獄の鍛錬を受けたの」
「え? あなたもですか?」
「なんと……仲間が他にもいたとは!」
「あれは本当に辛かった……ぐすっ」
「分かる。分かるよ? お互いよく生きていたね。会えて嬉しいよ?」
あの地獄の鍛錬は思い出すだけでも身体が震えるからね。