これからは幸せに暮らせるからね
「よし、これでリコリス城に行く準備ができたから……」
コンコン
あれ?
誰かがジャックの家のドアをノックしたね。
「車椅子を置いてくからなぁ」
あ、吉田のおじいちゃんの声だね。
車椅子を持ってきてくれたんだね。
ドアを開けると……車椅子が置いてあるけど、おじいちゃんの姿はないね。
「いつもありがとう」
おじいちゃんなら聞こえるよね?
「ペリドット様? 誰か来ましたか? まさかもうジャックが帰って来ましたか?」
ジャックのお父さんのいるベットからはここが見えないからね。
「違うよ? 知り合いが良い物を持ってきてくれたの」
「良い物を……?」
「ふふ。ほら、これだよ? 車椅子っていうの。これがあれば平らな道ならどこまでも行けるんだよ?」
「え? この椅子で? 車輪が付いていますね。馬車みたいです」
「うん。とりあえず乗ってみようか」
「こんなに高価そうな物を……もし壊したら……」
「あはは! 大丈夫だよ。これはわたしのお兄ちゃんみたいに大切な人が作ったんだよ? すごく手先が器用で、すごく優しいの。簡単には壊れないし、壊れたとしてもすぐに直してくれるよ?」
「オレみたいな者の為に……」
「ジャックのお父さん……そんな言い方はダメだよ? 自分を卑下するなんて絶対にダメだよ。ジャックも悲しむよ? こういう時は『ありがとう』って笑顔で言ってくれたら嬉しいな」
「オレは……ペリドット様にもらってばかりで何も返せません」
「そう思うなら……市場の皆の守り神になって欲しいな。それがわたしの望みなの。もちろん無理はダメだよ? ジャックもお父さんも皆と一緒に幸せにならないとね。皆の幸せの為に誰かが犠牲になるなんて絶対にダメな事だからね?」
「あぁ……ペリドット様……はい。『ありがとうございます』」
「ふふ。すごく素敵な笑顔だね。その笑顔を早くジャックにも見せないとね」
(あ、ぺるみ様、ジャックがこちらに向かって来ていますよ?)
え?
ゴンザレス、それ本当?
ずいぶん早いね。
(父親の足が治っているかもと走って来ていますね。王に全てを話し終えて……騎士団員もいますね)
そう。
教えてくれてありがとう。
助かったよ。
「ジャックのお父さん、もうジャックがそこまで来ているみたいだよ? 車椅子に座って外で出迎えてみない?」
「あぁ……はい。こんなにワクワクするのは久しぶりです」
「ふふ。これからは少しずつ身体が動くようになって毎日ワクワクする事になるよ? でも、嬉しいからって無理だけはダメだよ?」
「はい。気をつけます。ペリドット様……キラキラと世界が輝いているのが分かります」
「うん。この車椅子に乗って外に出たらもっともっとキラキラに輝く世界が見えるよ? 抱っこするから椅子に座ってもらってもいいかな?」
「え? 抱っこですか?」
「わたし、すごく力持ちなんだよ? 絶対に落とさないから安心してね?」
おぉ……
軽いね。
ガリガリに痩せているよ。
ジギタリス公爵は、ちゃんとお給料を支払っていなかったのかな?
ジャックも食べるのが精一杯で医者に診せられなかったって言っていたよね。
「……! 本当に力持ちですね。その細い腕のどこにそんな力が……」
「えへへ。よし。じゃあ、外に出てみようか。外は晴れていて、すごく眩しいよ?」
「はい! あぁ……久々に外に出ます」
「じゃあ、ドアを開けるよ?」
「はい!」
ふふ。
瞳がキラキラに輝いているね。
「あ……ジャック……」
もう家の前に着いていたんだね。
息切れしているよ。
慌てて帰ってきたのが分かる。
後ろには騎士団員が二人いるね。
一応爆弾を仕掛けた犯人だからかな?
「あぁ……眩しい。日の光がこんなにも眩しいなんて……」
お父さんは眩しくてジャックに気づいていないね。
「父ちゃん……! あぁ……父ちゃん!」
ジャックがお父さんに抱きついて泣き始めたね。
「ジャック? ジャック……あぁ……すまなかった。今まで……ずっと……オレのせいで……本当にすまなかった」
「父ちゃん……足は? もう痛くないの?」
「あぁ……ペリドット様が傷を治してくださって……服とクルマイスまで……」
「クルマイス?」
「ジャック……父ちゃんは、身体が動くようになったら市場で働くつもりだ。これからはジャックに嫌な仕事をさせないからな」
「父ちゃん……うん。うん……でも、無理だけはダメだからね」
「あぁ……できる事を無理なくゆっくりとしていくつもりだ。これからは……父親としてジャックを守るからな」
「父ちゃん……うん。うん」
この二人を見ていると心が温かくなるよ。
わたしも家族に会いたくなっちゃった。