世界の補正力って本当にあるの?
「えっと……ジャックのお父さん? 勝手に入ってごめんね?」
すごく顔色が悪いね。
「……うぅ……ジャックか?」
あぁ……
目が開けないほど苦しいんだね。
「わたしはさっき息子さんの雇用主になったペリドットだよ? ジギタリス公爵が捕まってね。わたしが息子さんの新しい雇用主になったの」
「うぅ……雇用主?」
「とりあえず、怪我をしたところをみせてね? 足だったよね?」
「あぁ……あの……恥ずかしい話ですが……トイレに行けなくて……」
「うん? 大丈夫。気にしないで? 恥ずかしい事じゃないよ? あぁ……」
太ももが……壊死しているのかな?
怪我をした時に傷口に土とか砂がついたりしたのかな?
これは酷いね。
この状態でずっと放置していたなんて……
「あぁ……ズボンも履かずに……恥ずかしい……」
「……痛かったね。苦しかったね。もう大丈夫だよ? 息子さんと約束したの。お父さんを助けるって。傷に触るよ?」
「あの……オレは汚れてて……」
「気にしないで? ごめんね。すぐに治るからね」
「……? あ……どうして……? 痛くなくなった?」
「うん。もう大丈夫だよ? 傷は治ったからね。でも、ずっと寝たきりだったから前みたいには身体が動かないはずだよ? ゆっくり身体を動かす練習をしようね?」
「……あなたは一体?」
「ふふ。ペリドットだよ? パパに頼んで飲み薬を作ってもらうからね。毎日飲んで早く良くなってね?」
「薬? あの……お金が無くて……」
「え? あはは。わたしは雇用主なんだよ? お金なんていらないよ。そんな心配はいらないから安心してね。それから、傷は治っても身体は疲れているから、絶対に無理はダメだからね? 今までは傷が痛くて眠れなかったでしょう?」
「あの……どうしてこんなに良くしてくださるんですか?」
「息子さんが……親孝行だからかな? わたしも家族が大好きなんだよ。だから息子さんがあなたの為に頑張っている姿を見て応援したくなったんだよ? もちろんそれだけじゃないけどね。わたしは聖人じゃないから、しっかり仕事はしてもらうよ?」
「……悪い……事を……させるんですね。あの、オレが全部やりますから……だから、息子だけは許してください」
「え? あはは! そうじゃないよ。息子さんが剣を構えた時に強そうだなって思ったの。今、露店商市場は貴族に荒らされたりしていてね。王様が警備を強化してくれたんだけど、まだ心配なの。だから、息子さんがずっと市場にいてくれたら安心だなって思ったの。もちろん、貴族相手にやり合えなんて言わないよ? ただ、強い人間が市場にいるって分かれば貴族も嫌がらせをしなくなるかなって思ったの」
「いるだけでいい……? ですか?」
「あなたが動けるようになったら模擬戦みたいな事をしてもらいたいとは思うけど、しばらくは無理だからね。今は身体を治す事を考えてね?」
「……あの。それは……あなた様に何の得が……?」
「え? あはは! ジャックにも同じ事を言われたよ。あのね? わたしは市場の皆が大好きなの。それから、王様の事もね。でも今のわたしにできる事は限られているの。だから、こっそり陰から力になりたいんだ」
「あなた様は一体……?」
「……うーん。わたし……ね? 人間が嫌いだったの。でも、それは誰かに決められた未来で……でも、実際人間と触れ合ったら……人間が大好きになったの。わたし……わたしは……あぁ……変な事を言ってごめん。わたしはペリドット。これからよろしくね」
わたしも世界の理に支配されかかっていたって事だね。
ルゥの時は、なんとなくだけど人間が嫌いだったんだ。
でも、今は違う。
……もしかして、長い年月が経って世界の補正力が弱まった?
違うね。
吉田のおじいちゃんの息子さんも人間が好きだったみたいだし。
実際人間を虐げてはいなかった。
むしろ、人間を大切に思っていたんだ。
元から世界自体には強い補正力は無いとか?
うーん。
よく分からなくなってきたよ。