この世界の補正の力(1)
さてと……
「そろそろ捕まえようか。本も塵になったし、もうこの人間は用済みだよ」
「ペルセポネ……何があったのかは大体想像できるが、あの書物の存在を知るこの人間を生かしたままで良いのか?」
ハデスは、この人間を始末したいんだね。
ん?
何があったか想像できる?
シェイドの黒歴史を知っていたのかな?
「でも……塵になった本の存在はジギタリス公爵も知っているんだよね? この男だけを消してもダメなんだよ。うーん……あの本の文字は読めないとして、問題は魔法陣だよね。あの図の通りに魔法石を置いたら実際どうなるかは誰にも分からないんだよね? 大爆発……なんて事もあるのかな?」
「あの文字は確かにわたしにも解読できなそうだったが……あれは特殊な暗号なのか?」
ハデス……
シェイドの前でやめてあげて……
そういう自分だけの文字とか魔法陣とかを描きたくなるお年頃もあるんだよ……
ハデスには上位精霊達が見えているんだよね?
ヴォジャノーイ族のおじちゃん達には見えていなそうだね。
精霊がわたしと話している時はハデスには聞こえていなくて、ハデスと話している時はわたしには聞こえないみたい。
上位精霊がそうしているんだろうけど……
わたしには聞かれたくない話をハデスとしているって事かな?
うーん。
「あのさ……ハデス? あの本の存在を知っている人間から、その部分だけの記憶を抜き取る事ってできるかな?」
「……殺った方が早いと思うが。何かの拍子に思い出されては面倒だからな」
「それもそうなんだけど……一応お兄様に生きたまま引き渡さないといけないからね」
遠回しに、アンジェリカちゃんを誘拐した犯人を殺ったか訊いてみようかな?
(あぁ……オレがいない時にして? 怖いから……)
シェイド……
やっぱりハデスが怖いんだね。
分かったよ。
もうハデスが犯人なのは分かっているから、訊かなくてもいいんだよね。
(……うん。ハデスが忘れてるなら、そのまま忘れていて欲しい。見てたってばれたくない)
……そうだね。
「ハデスは記憶を抜き取る事ができるんだよね? それってわたしにもできるかな?」
「そうだな。想像してみれば分かりやすいだろう。まず記憶を抜き取りたい相手の身体中の毛穴から液体化した自分が入り込む……そして、脳に入り込み消したい記憶を破壊するのだ」
「……わたしが……液体化して、あのおじさんの身体に入り込むの? なんだか気持ち悪いね」
「実際、液体化はしないが……想像だとしても、あの人間の身体にペルセポネが入り込む事は赦せないな。今回はわたしが記憶を抜き取ろう」
「……あ! ハデスは前にわたしの記憶を消した事があったよね? その時、吉田のおじいちゃんの息子さんの記憶を見たりしなかったのかな? わたしの魂は吉田のおじいちゃんの息子さんだから……」
「そうだな……そう考えながら記憶に入り込んではいなかったからな。だが、ヨシダのおじいさんが言うほどの邪悪な感情は無かったが……」
「そっか……あのさ……ハデス、おじちゃん達、上位精霊の皆も……あと、水晶で見ている皆もなんだけど……もし、吉田のおじいちゃんの息子さんがわたしの心を支配したとしたら……無理に止めようとしないで見守って欲しいんだ」




