お兄様の生きた姿を覚えていたいから
(じゃあ、魔法石は危険ではなくなったし……)
(そうだな)
(始めよう)
(これは上位精霊の威信をかけた戦いよ?)
(わたしが一番多く探し出す)
(わたしが一番だ)
(……)
シェイドは一緒に探せるメンタルじゃなさそうだね。
少し離れた場所で体育座りしたまま動かないよ。
(残りの十一個の魔法石を一番多く探し出した者の勝ちよ!)
あぁ……
「探してくれるのは助かるけど、魔法石を巡って上位精霊同士が争ったらアカデミーが壊れちゃうよ! 少し落ち着いて?」
(大丈夫よ。そんなヘマはしないわ?)
うぅ……
だって、皆興奮すると……
「ペルセポネ!」
この声は……
「ハデス!」
人化したヴォジャノーイ族のおじちゃん達三人も来てくれたね。
「大丈夫か? 怪我は? ベリアルから聞いたぞ?」
「来てくれてありがとう。爆弾は上位精霊達が探してくれるって……ってもう皆、行っちゃったね。あとは犯人を捕まえないと。あ、生きたまま犯人をお兄様に渡したいの」
先に言っておかないと、ハデスがやっちゃいそうだからね。
「そうか。今すぐ犯人を捜すぞ。ヴォジャノーイ族の戦士達よ。犯人のいる場所が聞こえるか?」
おじちゃん達が耳を澄まして場所を確認しているね。
「……この建物からは聞こえてきませんね。……あ、あの方向から聞こえてきます」
「あの方向? ……隣の建物かな。行った事が無いから構造が分からないよ」
「大丈夫だ。全ての科の建物の構造は同じだ」
ハデスは全部の建物を見たの?
「そうなの?」
「このアカデミーは元々数代前のリコリス王の側室達の為に建てられた物を再利用したのだ。全く同じ造りなのはその為だ」
「なるほど。側室同士で喧嘩にならない為か……」
……あれ?
じゃあ、城から離れているこの建物は火事にはならなかったんだね。
それとも火事の頃にはまだ無かったのかな?
「では、愚かな犯人を捕らえに行こう。魔法石自体にはそれほど力は入っていないはずだ。慌てる事は無いだろう」
「……うん。えへへ、アカデミーでハデスと一緒にいられるなんて嬉しいよ」
「わたしもだ」
ハデスが手を繋いでくれたね。
温かくて大きくて安心できるよ。
「ハデスとおじちゃん達は……」
(ぺるみ様! 聞こえますか? ぺるみ様!)
あれ?
ゴンザレス?
(やっと聞こえましたか。上位精霊達に操作されていたようで……聞こえて良かったです)
ごめん、ごめん。
肩においで。
「ペルセポネ?」
あ、ハデス達に話しかけていた途中だったよ。
「うん。えっと……ベリアルはお兄様の所から帰ってきたかな? もう講義を始めた?」
「ああ。王室騎士団を数十人連れて来たようだ。リコリス王は来たがったようだが唯一の王族だからな、絶対に来るなとベリアルに伝えさせた。リコリス王はペルセポネの為なら爆弾の嵐の中でも飛び込むだろう。まだ講義は始まらないだろうな。アカデミーの学生が全員広場に集まるには時間がかかりそうだ」
「そうだね……」
「とりあえず、王室騎士団は外に待機させている。中に入り込まれても迷惑だからな」
「わたし達にとっては軽い爆発でも人間には命に関わるかもしれないよね」
「ペルセポネ……今日でアカデミーを退学するのか?」
「学長と約束しちゃったの。四大国のアカデミー魔術科対抗魔術戦に出るって……だから、あと二か月だけ……そうしたら、もう……」
「……きちんと卒業しても良いのだぞ?」
「ううん。それは大丈夫。わたしは人間には深く関わらない方がいいの。今だけ……最後に人間といられる時間を与えてもらえて良かったよ。わたし……今までこの世界の人間が嫌いだったの。あ、もちろんおばあ様とかお兄様は好きだったよ? でも、今回たった二日で人間の優しさを知れたの。だから、二か月あったらもっともっと人間が好きになると思うんだ。その分、別れは辛くなるだろうけど……お兄様の生きた姿を、時代を……目に焼き付けたいの」
「……そうか」
「……うん。何千年経ってもお兄様を忘れない為に。わたしを愛してくれた人間を……ずっと……覚えていたいから」
別れは辛いけど……
生きる長さは変えられないから。
だから、後悔しないように毎日だってお兄様に『大好きだよ』って伝えたいんだ。




