人魚の海域(4)
「人間には天族の存在は知られたくないのよ。分かるでしょ? 魔族は聖女の力を利用せずに守ってくれたわ? でも、人間はそうではないの。少し前には、聖女まではいかない少量の神力を持って生まれてきた子の神力を搾り取っていた愚かな王もいたしね」
お母様が悲しそうに話しているね。
「聖女様やヒヨコ様は地上にいるから、危険って事か?」
お母様の話に魚人族が険しい顔で呟いたよ。
「うーん。それはどうかしらね? ペルセポネは神の娘だからかなり強いはずよ? 今は身体も健康だからきちんと訓練すれば人間なんて怖くもないわね。ベリアルは……今はかわいいヒヨコの姿だけれど、その気になればこの地上は一瞬で灰になるわね……」
「一瞬で灰に!?」
「そうよ? だから見ていてヒヤヒヤしたの。ペルセポネはベリアルを吸いたくて堪らないでしょう? いつか本気で怒らせてそうなるのではないかと……」
「確かに……」
「でも、大丈夫そうね」
「そうなのか?」
「ベリアルは……あの頃とは違ってすごく楽しそうに笑っているから」
「……?」
「やっと幸せに暮らせる場所を見つけたのね。あぁ……話が逸れたわね。第三地区の皆もああ見えて強いのよ? ここにいる皆は自分の身は自分で守れるわ? 捜しに行きましょう? あなたの大切な人魚を」
「え? オレの大切な人魚?」
「そうよ? 愛しい人魚と離れ離れになって、長い間捜していたんでしょう?」
「……? え? そんなんじゃないぞ? オレはただ……」
「おい! 早くこっちに来いよ!」
あれ?
向こうの島から誰かが呼んでいる?
「え? あ! いた! あいつだ!」
え?
あいつ?
いつの間にか向こうの島の波打ち際に人魚が数人出てきている?
あの中に捜していた人魚がいるの?
「え? あそこに見える人魚?」
お母様が驚いた顔をしている?
どの人魚?
皆ムキムキのたくましい男の人魚だよ?
「お前! オレが分かるよな!?」
海賊の魚人族が怒りながら叫び出したね。
これは恋愛とかじゃなさそうだよ。
「うわっ! しつこいヤローだな! ……そうだ、返して欲しけりゃこの島まで来いよ!」
え?
何か貸している物を返して欲しかったの?
わたしも第三地区の皆も、てっきり恋人を捜しているんだと思っていたのに。
「このクズヤロー! 今から行くから全額返せよ!」
全額?
お金?
魔族にもお金ってあるの?
ハデスは人間にしかお金は無いって言っていたよね?
「ああ! 返してやるから今すぐこっちに来いよ! 久々の客だからな! しっかりもてなしてやるぜ! あははは!」
あぁ……
あの人魚は知らないんだね。
今ここにいるメンバーの恐ろしさを……
魔法石でやられるような弱い人なんて一人もいないんだよ。
海賊の魚人族も強そうだし……
久々の客に泣いて謝る事になるだろうね。