わたしは役者にはなれないね……
「じゃあ……始めようか」
今から、公女と公爵の望み通りクラスメイト達が毒に倒れるよ。
もちろん振りだけどね。
「ペリドット様……公女は……結局何も変わりませんでした。わたくしは……講師失格です。学生を正しく導けませんでした」
先生が辛そうに話し始めたね。
「先生は厳しい身分制度の中で頑張っていたよ。これからのアカデミーは自分より地位の高い学生にも注意できる環境を整える必要があるね」
「ペリドット様……」
「皆のカップに注いであるのは緑茶だけど、今から一口飲んだらゆっくり倒れてね?」
「「「……」」」
皆、真剣な顔をして黙っちゃったね。
「あの……毒は……苦しいですよね?」
学長も倒れるつもりなんだね。
「……うん。昔飲んだ事があるけど、毒が通った臓器が焼けるように痛かったよ」
「毒を飲んだのですか? それは……訊かない方が良い事……ですね」
「昔の事だから、今はもう平気だよ?」
「安心しました……苦しむ振りをした方がいいと思うのですが……」
「そうだね。少しは演技が必要かもね」
「演技……実はわたしは若い頃に舞台役者に憧れた時期がありまして。今こそ、あの頃の情熱をぶつける時だと思うのです」
「え? 学長は舞台役者になりたかったの?」
「舞台役者の夢は叶いませんでしたが……今はアカデミーの学長として未来を担う子供達を育てるという充実した日々を過ごしています」
「そうだね。素敵な学長だよ?」
「では……始めます。皆も後から続いてくれ……ゴク……」
……学長が緑茶を飲んだね。
「うぅ! あああ! 苦しいっ! あああ! なんという事だああ! 臓器が……熱い! 焼けるようだああ! バタ!」
おお……
学長が、見ている方が恥ずかしくなるような演技をしながら倒れたね。
しかも効果音をセリフとして言ったよね?
クラスメイト達がドン引きしているよ。
あの演技の後には続きにくいね。
次は誰が行くの?
誰もお茶を飲まないよ。
うわあ……
クラスメイト達の顔が青ざめているよ。
(ぺるみ様、この人間達は今の変な演技を超える方法を考えています)
え?
ゴンザレス?
どう頑張っても今の演技を上回るものなんてあり得ないよ。
「(あの……今の演技を超えなくていいから倒れてもらえるかな?)」
「え? あ……く……苦しい……です。はい」
先生……
ちゃんと淑女らしくスカートがシワにならないように倒れたね。
「あ……なるほど。シワになってはいけないわ……うぅ! くる……しい」
おお……
伯爵令嬢……
「うわあぁ! もうダメだあ! (恥ずかしくて耐えられない)」
前の席のジャック!?
早くこの空気から抜け出したくて倒れたね?
他のクラスメイト達もうつ伏せで顔を真っ赤にしながら倒れていくね。
確かに、思春期の人間には恥ずかし過ぎるよね。
さて、わたしの出番か……
うぅ……
あの学長の演技を見た後だと確かにやりにくいよ。
「ア……アレ? ミンナ、ドシタノカナ?」
うわあぁ!
恥ずかい!
カタコトになっちゃったよ!
「「「プッ!」」」
毒でやられた演技中の皆が笑いをこらえている!?
「(うぅ……恥ずかしいよぉ。もうやめたいよぉ)」
「ぷはっ!」
吉田のおじいちゃん!?
離れた木の陰からでもちゃんと聞こえるくらい吹き出した!?
うわあぁ!
恥ずかしいよぉ!
お兄様も騎士団員も見ているんだよね?
あああ!
もう立ち直れないよ!