人魚の海域(3)
「わぉ! 晴太郎! 見て見て! あそこにかわいい人魚がいるよ」
お父様!?
今、罠だって聞いたばかりだよね!?
「天ちゃん……今のハデスちゃんの話を聞いてたか?」
おぉ。
吉田のおじいちゃんは、まともだね。
ん?
おばあちゃんと手を繋いで仲良しだね。
さすが恋人同士だよ。
「うわあぁ! 天族とは違うかわいさだねっ! かわいいっ!」
「ちょっと! ゼウス!? 浮気は許さないわよ!?」
「うぅ……ヘラちゃん。分かったよ」
お父様はヘラが怪力だって分かってから、かなり大人しくなったみたいだね。
あ……
そういえば、お父様を一発殴る事になっていたんだ。
今のペルセポネの身体と、ルゥの身体は力の差がどれくらいあるのかな?
「ねぇ、お父様? ルゥの時の約束を覚えているかな?」
「え? 約束? なんだったかな? でもかわいいペルセポネとの約束ならなんでも叶えちゃうよ? お父様は神様だから! えっへん!」
えっへん?
本当に言う人を初めて見たよ。
「わたしが強くなったらお父様を一発殴る約束だよ?」
「え? あれはもう時効じゃないの?」
「……」
「うわあぁ! 黙らないで! 怖いよ!? デメテルちゃんにそっくりだよ!?」
ふふふ。
お母様に教えてもらったんだよね。
お父様には無言の圧が効くって。
「あら? わたしが怖いって事かしら? ふぅん。ゼウスはそう思っていたのね」
あぁ。
お母様にも聞こえていたのか。
「え? ちが……違うよ? デメテルちゃん……? ごめん……怒らないで?」
「……」
「デメテルちゃん!? だから無言は、やめてぇ!」
お父様……
神様なんだよね?
「まぁ、ゼウスは放っておくとして、知り合いの人魚に会いたいんでしょう? 名を呼んではどう?」
お母様が魚人族の一人と話し始める。
「天族や人間と違って、魔族は同じ種族以外に名を知られると従魔になるんだ。だから、オレはあいつの名を知らないんだ」
「そうなのね……あの島の中には、いるはずだからやっぱりあの島に入るしかないわね」
「……オレ一人で行くよ。危なそうだからな」
「え? 危なくなんてないわ? むしろ、今はこの島の方が危険よ?」
「この島の方が危険? それはどういう?」
「もう知っているとは思うけれど、あのゼウスはあれでも神なの。それで……ゼウスの後ろにいるのは妻のヘラよ? 妹なの。で、その横にいるのが一番上の姉のヘスティアなの(あぁ……火干しが始まりそうだわ)」
「聖女様の父親が神……って事か? あれ? でも母親は、あんたなんだよな? でも妻はあっちの天族? 一番上の姉? よく分からないな?」
「そうね。ここにいるペルセポネとベリアル以外の天族は姉弟なの。わたし達天族は家族で結婚する事がよくあるの。それに、天族の男達は皆女好きでね。困ったものよ」
「魔族は『つがい』にはならずにパートナーとして側にいる事はあるが……天族は家族で? 信じられないな……ん? ベリアルって確かあのヒヨコ様の事じゃないか?」
「え? そうよ?」
「天族だったのか? 聖女様のペットだって聞いていたけど」