人魚の海域(2)
「ヘラちゃん……いつの間に背後に……」
「ふふふ。昨日の続き、やる?」
「うわあぁ! ごめんなさああぁい! 命だけはぁぁ!」
お父様とヘラはいつも通りだね。
昨日の続き?
ん?
ヘスティアの綺麗な顔が、今日はいつも以上に輝いている?
あぁ……
昨日、お父様を気が済むまで火干ししてストレス発散できたのかも。
って、そうじゃなくて……
「ハデス? 人魚は人間から隠れて暮らしているんじゃなかったの?」
大昔の人魚の肉を食べると永遠の命を授かれるっていう噂のせいで、かなりの数の人魚が狩られたんだよね。
「そうだな。あれはわたしが種族王になったばかりの頃でな。ヴォジャノーイ王国の傘下に入る事を条件に人間から隠したのだ」
なるほど。
人魚はヴォジャノーイ王国の傘下に入っているのか。
「今、人魚は隠れてわたし達を見ているの?」
「そうだ。あの頃の人魚は弱くてな。強くなる為に鍛錬を続けさせた。だが、身体がたくましくなっても陸に上がれなければ捕らえられた仲間を救えない。だから一人につき一つずつ魔法石を渡して魔術を使えるようにしたのだ」
「え? そうなの?」
わたしの鍛錬の先輩なんだね。
あの地獄に耐えたのか……
「ああ。波打ち際から見える距離なら風の力で人魚を取り戻す事ができるだろう。雷は危ないから使わせないがな」
海だし皆、感電しちゃうからか。
確かに危ないね。
「……? ハデス? どうして人魚は今わたし達の前に姿を現さないの?」
「それは、テリトリーに入るのを待っているのだ」
「テリトリー? 何それ?」
「確実に仕留められる距離に来るのを待っているとでも言えば分かるか?」
仕留める?
え?
わたし達って獲物なの?
「えっと……この辺りって危ないのかな?」
第三地区の皆は強いし、お父様が創った身体だから危なくはないけど……やっぱり心配だよ。
「今いるこの島は平気だ。だが、向こうに見える島の周辺は人魚の……楽園とでも言うか……」
楽園?
楽しい所?
「たくましくなった人魚達は、わたしが渡した魔法石を使いこなすようになった。だから、あの見えている島に近づく者を攻撃したくて堪らないのだ」
ん?
襲ってくる侵入者を倒したいっていう事?
でも、今の話の感じだと魔法石を使いたくて堪らないっていう感じかな?
「人魚は美しい女体の姿で人間や魔族をこの辺りの海域に誘き寄せては魔石で攻撃し続けて……それからは、誰も寄り付かなくなったのだ。あまりに攻撃したがるから、非常事態以外はあの島の周辺でしか魔石を使ってはいけない事にしたのだ」
え?
なんだか想像していたのと違うんだけど……