生キャラメル神官は大変な人生を送る事になりそうだね
「と……とりあえず、逃げた方がいいよ? 命が惜しければ……」
ハデスが怖過ぎて身体が震えるよ。
「何? 生意気な!」
生意気じゃなくて、優しさだよ。
この『世界最強の冒険者』は全然強くないよね?
むしろ弱そうだよ?
「いや……これ以上怒らせると本当にまずいんだよ」
早く逃げてよ。
まあ、すぐに追い付かれるだろうけど。
「この世界最強の冒険者のオレ様が小娘相手に怯えるとでも思うのか!」
「……いや、わたしじゃなくて……もういいや、命が惜しければわたしが相手になるよ」
わたしは命までは奪わないからね。
重傷くらいで済ませてあげるよ。
「……? 意味が分からんが……ここまでコケにされたら相手をしてやろう」
「あなたは素手かな?」
「普段は剣を使うが……素手でいいだろう」
「分かった。急ごう? これ以上は本当にまずいから。じゃあ、始めるよ?」
「小娘よ、後悔させてやる!」
時間をかけるとハデスが仕留めに来ちゃうから……
少し急ごうかな?
おぉ……
近くに立つと背が高いね。
パパよりは小さいけど百九十センチくらいはあるかな?
わたしは百六十センチくらいしかないから見上げないといけないね。
かなりがっしりしている……っていうよりは脂肪みたいだね。
「ペリドット様! おやめください! 危険です!」
先生が心配して叫んでいるね。
また心配かけちゃったよ。
「オレ様が怖くて動けないか? ぐははは! 謝るなら今のうちだぞ!」
はぁ……
本当、面倒だね。
「先に攻撃していいよ?」
「何? 怖くて動けないんだな? ぐははは! じゃあいくぞ!」
ふぅん。
左利きなんだね。
腕を振り上げて殴ろうとしているけど、ずいぶん遅いね。
わたしはハデスの鍛錬を受けているからこんなのは殴るうちに入らないよ。
「きゃあああ!」
先生とクラスメイトの女の子達の悲鳴が響いているね。
じゃあ、始めようかな?
自分より大きい敵に襲われたら……
まずは相手に攻撃させてその力を利用して……
投げ飛ばす!
柔道の投げ技みたいな感じかな?
前の世界での柔道はよく分からないけど、これはハデスが教えてくれたんだ。
それにしても、太い腕だね。
ルゥの身体の時はオークのパパに育てられたから、わたしも力が強かったけど、ペルセポネの身体も怪力のヘラが子育てを手伝ってくれていたからかなりの怪力なんだよね。
「ぐうっ!」
よし……と。
簡単だったね。
完全にのびているよ。
「これに懲りたら横入りをしたらダメだよ? はい、最後尾に並んでね」
「うぅ……」
まだ、立ち上がれないか……
じゃあ、今のうちに……
「生キャラメル神官、大丈夫だった?」
うわぁ……
頬が赤くなっているよ。
痛そうだね。
口の中を切ったのかな?
血が出ているよ。
「……はい。ペリドット様は……お強いのですね」
「え? えっと……パパが……力持ちで……叔母様も力持ち……だからかな? あは……あはは……」
わざとらしくなっちゃったね。
とりあえず、怪我を治して……
よし。
「あ……痛くない……ありがとうございます。これが治癒の力なのですね」
「うん。あ……歯が欠けているね。どこかに欠けた歯が落ちていないかな? あ、あった」
地面に落ちていて良かったよ。
「ペリドット様……?」
「綺麗に浄化してから……と。よし。口を開けて?」
「え? あ……はい」
欠けた歯を付けてあげないとかわいそうだからね。
うーん。
どうかな?
「よし。治ったよ? 頭にかなり強い衝撃を受けたからね。しばらくはお休みをもらってゆっくりしてね?」
「ですが……巡礼が……」
「無理はいけない。まだ若いのだからこれから先の人生を考えなければな……今は休みなさい」
おぉ……
司教は意外に優しいんだね。
「ジャックよ……わたしはお前を次期救世主様に……と考えているのだ。身体を大切にするのだぞ?」
「え!?」
生キャラメル神官の名前もジャックなのか。
っていうより、今の『え!? 』は、かなり嫌そうに聞こえたんだけど……
絶望の表情だし。
やっぱり、あの踊りを嫌がっているんだよね?
分かるよ。
この若さであの踊りの後継者なんて耐えられないよね。