邪悪な心と善良な心~前編~
すぐに戻るからとクラスメイトに伝えて、ベリアルに空間移動してもらい第三地区に着くと涙が溢れてくる。
目を閉じていないと涙がこぼれちゃうよ。
「ぺるぺる……」
吉田のおじいちゃんの声?
全部聞いていたんだよね?
わたしとゴンザレスの話を……
「あぁ……ベリアル、ハリセンボンのゴンザレスを魔王城に連れて行ってくれるか? ゴンザレスはあの事以外の全部を星治……魔王に話すんだ」
あの事……
おじいちゃんが心の声が聞こえる事だよね?
ゴンザレスはベリアルと魔王城に行ったんだね。
でも……
涙がこぼれちゃうから目を開けられないよ。
「……ぺるぺる、もう光は消えたからなぁ。眩しくねぇぞ?」
「うん。でも……」
「知っちまったんだなぁ」
「……うん。でもわたしは平気だよ? 今朝は混乱しちゃったんだよね。ごめんなさい」
「ぺるぺるが謝る事じゃねぇさ。全部じいちゃんが悪いんだ」
「おじいちゃん……ベリアルには話さないで……お願い」
「あぁ……その方が良さそうだ。皆に……話してもいいか?」
「……うん」
「皆、すまねぇ……今朝、皆の記憶を少し、いじっちまった。実は……オレの息子の魂はぺるぺるだけじゃねぇんだ。ベリアルも……オレの息子の魂なんだ」
「晴太郎? どういう事だ?」
おばあちゃんが真剣な顔で尋ねているね。
いつも賑やかな第三地区の皆も静かに聞いているよ。
「それは……」
おじいちゃんからは話しにくいよね。
わたしの魂が邪悪だって話さないといけないから……
「わたしから話すよ。さっきのハリセンボンは朝の話を海の中から聞いていたの。それで、記憶を操作されていなくて……だから教えてもらったの」
……?
あれ?
そういえばどうしてわたしとゴンザレスは心の中で話ができたのかな?
吉田のおじいちゃんとは心の中で会話はできないよね?
わたしの声を聞かれるだけで、おじいちゃんの声は聞こえないんだよ?
上位精霊とは会話ができるけど、どうしてなんだろう?
「……ぺるぺる」
あ、ちゃんと話さないと。
「わたしの魂は遥か昔、ベリアルとひとつだったの。おじいちゃんの息子さんが亡くなった時にその心が二つに分かれたんだって。ベリアルは優しい心、わたしは邪悪な心……おじいちゃんは優しい魂を天界のベリアルに入れた……のかな? そして、邪悪なわたしの心を側に置いて、入れる身体を探していた……のかな?」
「……ぺるぺる、すまねぇなぁ。自分で自分を邪悪だなんて言わせて……」
「いいんだよ。おじいちゃんの口から言わせたくなかったの」
「ぺるぺる……」
だから、そんな辛そうな顔をしないで?
お願いだよ。
「ペルセポネの魂が邪悪? 何かの間違いではないのか?」
ハデス……
戻っていたんだね。
「間違いじゃなさそうだよ。わたし自身も自分の心に邪悪な部分がある事に気づいていたから」
「ぺるみ……ぺるみは邪悪なんかじゃねぇぞ? ばあちゃんが一番近くで見てたんだ。ぺるみは、ばあちゃんを守る為に小さい身体でずっと頑張ってたんだ。だから……絶対に邪悪なんかじゃねぇ」
おばあちゃんが泣きそうな顔をしているね。
「おばあちゃん……ありがとう。でも……遥か昔のわたしの魂は、かなり危ない感じだったみたいなの。頭の中は殺戮とか……復讐とかそんな事ばかりだったんだって。その心をベリアルの優しい心が抑えていたらしいの」
「晴太郎……本当なのか? ベリアルとぺるみは元々ひとつだったのか?」
おばあちゃんの頬に涙が伝っているね。
おじいちゃんも、おばあちゃんのこんな姿は見たくなかったよね。
「……そうだ。でも、息子の心をそんな風にしちまったのはオレなんだ。オレがあの子を捨てなければ……」
「おじいちゃん……わたしね? さっきハリセンボンのゴンザレスに言われて思ったの。おじいちゃんはわたしが月海の時もルゥの時もペルセポネの時もずっと側にいてくれたの。おじいちゃんはわたしが邪悪な心に戻らないように導いてくれていたんだよね」
「ぺるぺる……すまなかった。ファルズフに薬を盛らせていたのはじいちゃんなんだ。ペルセポネの身体では息子の邪悪な心を受け入れられなかったんだ。だから、心を抑える薬を……でも、ファルズフは毒を盛りペルセポネを自分のものにしようとして……」
「おじいちゃん……わたしはおじいちゃんを信じているよ? 定期的に解毒しに来てくれていたし、心を抑える薬はまともな医師だと処方してくれないような薬だったんだよね?」