人魚の海域(1)
(かわいい人魚に会える予感にご機嫌な)お父様の空間移動で、一瞬で人魚の海域に到着する。
「ここに着いたか」
ハデス……?
思った場所と違う所に着いたのかな?
「前王様、ぺるみ様。人魚達は久々の来客に隠れてしまいました」
先にこの海域に来て人魚に事情を説明してくれていたヴォジャノーイ族のおじちゃん達が申し訳なさそうにしている。
「仕方ないよ。人間に酷い目に遭わされてきたんだから怯えるのは当然だよ?」
昔、人間が人魚狩りをしたんだから、他種族を怖がるのは当然だよ。
「え? 怯える? 人魚がですか?」
「今頃ワクワクしているはずですが……」
「人魚は……ずっと来客を望んでいたのですが、誰も来ないので……」
……?
あれ?
なんだか想像していたのと違う感じ?
「あれには、まだ魔力が入っているのか?」
ハデスがおじちゃんに話しかけている?
あれに魔力が入っているか?
っていう事は……
やっぱり人魚もハデスの地獄の鍛錬を受けたのか。
「はい。おもしろがった精霊達が魔法石に力を入れ続けているようです」
「やれやれ……まぁこんな所には誰も来ないだろうからな。大丈夫だろう」
こんな所?
誰も来ない?
なんだろう……嫌な予感がしてきたよ。
「おじちゃん達、あのね? 海賊の魚人族が人魚の知り合いを捜しているの。会えるかな?」
「その話を人魚達にしてみたのですが、誰も心当たりが無いらしく……もしかしたら既に人魚狩りにあってしまったのかも……」
そんな……
人間の思い込みのせいで……
「いや、この匂いは……生きている」
海賊の魚人族が大きく息を吸い込んでいる。
「え? 匂いがするの?」
「ああ。間違えるわけがない。この匂い……懐かしい」
やっぱり、かわいい人魚の……恋人とか?
あぁ、わたしまでドキドキしてきちゃったよ。
「良かった。ずっと捜していた恋人に会えるんだね」
「……? 恋人?」
「え? 違うの?」
もしかして、片思いとか?
「おいっ! まだか!? 早くこっちに来いよ!」
「ははは! 久々の客だぞ!」
「ドカンドカンやってやるぞ! あははは!」
え?
何?
今の野太い声は……?
「人魚だな」
え?
ハデス?
今のが人魚の声?
「「人魚ってすごくかわいい女の子じゃないの!?」」
うわあぁ……
お父様と声が被っちゃった……
このお父様と……すごく恥ずかしいよ。
「人魚は、子作りの時期以外は男の姿なのだ。その時期にだけ半分の者が性別を変え女になる」
ハデスがわたしの気持ちを察して髪を撫でてくれる。
「そうなの? 確かドラゴンも性別を変えられるって言っていたよね」
「あぁ。そうだ。普段はたくましい男の姿の方が生き残れるからな」
「なるほど」
だから野太い声が聞こえてきたのか。
「ええっ!? じゃあ今は? 今は時期的にどうなの!?」
お父様……
一応神様だよね。
娘の前でよくそんな事が言えるよ……
「ふふふ。ゼウス? 今はたくましい男の姿の時期よ?」
うわあ……
ヘラがすごく嬉しそうに笑っているね。
昨日ハデスにその事を聞いていたんだね。