ハデスの職種はなんだろう?
「モグモグ……でも、いいのか? 失敗したら身体が二つに裂けるぞ? まぁオレは失敗なんてしないけどな。モグモグ……」
ベリアル……
言っちゃうんだね。
「え? 身体が二つに……」
先生の顔色が青ざめていくね。
「あの……歩いて行くのはどうかな? 皆もその方が安心だよね?」
王様達でさえ怖がったんだから怖いのは当然だよね。
「そうしましょう! では早速学長に校外講義への変更を伝えてきますね?」
先生がベリアルを一吸いしてから椅子に座らせて、ニヤニヤしながら出て行ったね。
「ん? 今吸われたのか? 気のせいか? モグモグ……」
なんて事!?
ベリアルに気づかれずに吸うなんて……
アカデミーにも鳥吸いのプロがいたんだね。
「ヒヨコちゃん……先生の顔、見た?」
かなり、にやけていたけど。
「ん? 見てないぞ? ずっとお菓子とオムライスを見てたからな」
「……そう」
先生が、ど変態な事は言わないでおこう。
「あの……ヒヨコ様は空間……移動? をするのですか?」
この女の子は確か公女の取り巻きだったね。
「そうだよ? ピカッて光って目を開けると行きたい場所に着いているの」
「すごいですね……でも失敗すると身体が二つに裂けるとは、本当ですか? 聖女様はいつも空間移動で登下校を?」
「わたしは二つに裂けたのを見た事は無いけど……失敗するとそうなるらしいよ?」
「……! 怖くはないのですか?」
「わたしはヒヨコちゃんを信じているから。確かに最初は怖かったけど今は平気だよ? あと、今まで通りペリドットでいいよ? 聖女だって知っている人間もいるけど、まだ皆の前で言うつもりはないの。もちろん口止めもしないよ?」
「……? なぜですか?」
「え? それは、最初から『わたしは聖女だったんだ』なんて言いながら現れたら『変な子が来た』って思われちゃうでしょ? まぁ『ドラゴンと共に暮らす少女』の時点で変な子だけどね」
「ペリドット様はなぜアカデミーに?」
「うーん。お兄様が大変だって聞いて何かできないかなって思ったの。それと、友達のココちゃんとアンジェリカちゃんが拐われないようにする為かな?」
「そうでしたか。あの……昨日の……その……」
「ん? 話しにくい事かな?」
「ペリドット様が……口づけした男性は……その……」
うぅ……
やっぱり見られていたよね。
あれは口づけしたっていうよりは口を塞いだっていう方が正しいんだけど、そんな事は言えないよね。
「うん。婚約者だよ? ずっと見守ってくれているの」
人化したヴォジャノーイ族のおじちゃん達とね。
いつ人間を殺るか不安で仕方ないから、できれば近くじゃなくて第三地区の水晶から見ていて欲しいんだけど。
「ずっと……」
「えっと、どうしたのかな?」
まさか元魔族で前ヴォジャノーイ王だってばれた?
うつむいて震えているよ?
「……きゃあぁぁ! ずっとですって!」
「羨ましいです! とてもお似合いでしたよ?」
「あの……あの……もう手を繋いだりとか……きゃあぁぁ!」
おぉ……
女の子達が騒ぎだしたね。
「あの……恋愛で? それとも政略結婚ですか?」
そういえば、貴族はほぼ政略結婚なんだよね。
二十も三十も年の離れた相手と結婚する事もあるらしいけど、この子達もそうなのかな?
「えっと……恋愛……かな? ずっと前に知り合っていて……少し前に再会して……それで結婚しようって」
しどろもどろになっちゃった。
でも、今の話に嘘は無いからね。
「きゃあぁぁ! 素敵!」
「何をされている方なのですか?」
何をされている方?
『主にわたしを侮辱した人間の暗殺です』なんて言えないよ。
ハデスは何をしているって言えばいいんだろうな?
前王……だけどそれは言えないし。
うーん。
困ったな。