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皆が仲良く、誰も傷つけ合わない世界なんて幻想だよね

「あの……いただきますとは、何ですか?」


 あれ?

 そういえば、この世界の人間が言っているのを聞いた事が無いかも。


「ジャックは食べる前に『いただきます』をしないの?」


「初めて聞く言葉ですね」


「そうなんだね。食事を作ってくれた人とか食材への感謝の言葉なんだよ? ご飯を作ってくれた人はもちろん、野菜を育ててくれた人や、魚にもありがとうって気持ちを込めて『いただきます』って言うの」


「魚にまで……ニホンは感謝の国ですね」


「感謝の国? 確かに皆『ありがとう』ってよく言っているね」


「……あの、ペリドット様は……聖女様……なんですか?」


 さっきのココちゃん達との会話で分かっちゃったんだね。

 隠すつもりもないし、話そうかな?


「えっと……うん。そうだよ? 神様がね、浄化で命を落としたルゥに申し訳なかったって……それで、この身体を授けてくださったの」


「神様が……そうでしたか」


「こんな嘘みたいな話を信じてくれるの?」


「もちろんです。ペリドット様が嘘をつく必要はありませんから。それと……ありがとうございました」


「え? ありがとう?」


「はい。聖女様の浄化のおかげで領地に日が当たるようになりました。顔色の悪かった領民達が今では日に焼け元気に田畑を耕していると手紙が届きました」


「……魔素が祓われて、嫌な思いをしていないの?」


「え? 嫌な思いですか?」


「魔素が無くなったら新しい問題が……」


「まさか、それを自分のせいだと思ってるんですか?」


「……今、この瞬間も揉め事は続いているんだよ。魔素が祓われたら世界は平和になると思っていたのに……」


「聖女様が望んだ未来とは違う未来になってしまったんですね。命がけで救ってくれた世界がこうなってしまって……ごめんなさい」


「……」


 魔素を祓っていた時は色々あって、深く考えずに浄化をしていたけど、少し考えれば魔素が無くなれば違う揉め事が起こるのは分かったはずだよ。

 これから豊かになるであろう世界で、自国に何も無い事に気づいたら焦って悪事に手を染める国も出てくるよね。


「聖女様……命をかけて世界を守ったのに……浄化してくれたのに……本当にごめんなさい……」


 ジャックもクラスメイト達も泣きそうになっているよ。

 聖女は人間にも魔族にも大切な存在なんだね。


「ジャック……違うよ。そうじゃないの。泣かないで? 今は魔素が祓われたばかりで人間もどうしたらいいか迷っている最中なんだよ。落ち着いてきたら、きっとわたしの望んだ世界に……なる……はずだよ」


「聖女様の望んだ世界?」


「うん。『皆が仲良く、誰も傷つけ合わない世界』だよ? 結局、それが一番大切なんだよ。そうなれば皆が幸せになれる……なんてね。無理なのは分かっているの。そんな世界は訪れないよ。誰だって自分が一番大切なんだから。でも、この広い世界にわたしみたいな考えをする人が一人くらいいてもいいと思うんだ。……笑っちゃうよね」


「聖女様が……命がけで世界を守った理由が……皆の幸せの為……」


「ジャック?」


「あの……先生。今日の属性検査、オレも付いて行ってもいいですか?」


 え?

 ジャックも検査を受けるのかな?


「……そうねぇ。ヒヨコ様、お願いがあります」


 先生が真剣な顔をしているね。


「ん? モグモグ……なんだ?」


「このクラス全員を会場まで連れて行っていただけませんか?」


「ん? いいぞ? モグモグ……」


 え?

 皆で一緒に行くってもしかして空間移動で?

 まだ皆は知らなかったんだっけ?

 空間移動は失敗すると身体が二つに裂けちゃうんだよ。

 言わない方がいいのかな?

 言った方がいいのかな?

 うーん。

 どうしよう。

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