ヘラはかわいいヒヨコちゃんになっても怪力なんだろうね
「ペリドット殿下? 今、白いヒヨコ様が『じわじわとなぶり殺』と……」
うぅ……
先生に聞かれちゃったよ。
このクラスルームにいる皆にも聞かれちゃったね。
怖がられたかな?
「えっと……気のせい……かな?」
しっかり、聞かれちゃったからごまかせないか……
「気のせい……じゃないよ。うーんと……えーと……ヒヨコちゃんは皆性格が違って……だから……えっと……」
「もう! ペリドットは優し過ぎるのよ! どうせ処刑されるんだから少しくらい早くなっても変わらないわよ。今すぐ殺りに行くわよ」
ヘラ!?
ヒヨコちゃんの姿でも怖いよ?
「あぁ! ダメダメ! 今はまだダメだよ!」
「嫌よ! もう限界よ。さっき公女を殺らなかった自分を褒めてあげたいわ!」
「気持ちは分かるけど、お兄様が頑張っているんだから邪魔しちゃダメだよ(後でお父様の秘密を教えてあげるから)」
「え? 秘密を? ……もう、仕方ないわね。今回だけは赦してあげるわ」
やっぱりヘラはお父様の事が大好きなんだね。
お父様を利用して申し訳ないけど、これでヘラは大丈夫だ。
ドラゴンの卵が産まれそうなのか。
しばらくして、わたしを肉だと思わなくなった頃に会いに行けたらいいなぁ。
って、今はそうじゃないよ!
「あの……『じわじわと』のやつは……えっと……ヒヨコちゃんはただのかわいいヒヨコちゃんだから……怖くないというか……」
「ペリドット殿下、ヒヨコ様の言う『じわじわとなぶる』とは、もしやそのパンのようなかわいらしい翼でペチペチと叩くという事でしょうか?」
「え? あの……それもあるかもしれないけど、何て言うか……」
ペチペチじゃなくて瞬殺のような……
「あぁ……ヒヨコ様、どうかわたしの頬をペチペチと叩いてください!」
先生!?
札束で頬を叩くのは聞いた事があるけど、ヒヨコちゃんに叩かれたいなんて……
なかなかの変態だね。
でもベリアルならいいけどヘラは危険だよ。
怪力だから腕を振るだけで遠くの島が割れちゃうんだから。
いくら今のかわいいヒヨコちゃんの姿でも、首と身体が別々になっちゃうよ。
「先生……やめた方がいいよ。首が飛んでいくのが嫌ならね」
「え? 首が飛んでいく? あの……アカデミーを辞めさせられるという事ですか?」
「そうじゃなくて……実際に首が飛んでいくんだよ」
「……! このかわいらしい翼にそのような力が……あぁ……叩いて欲しい……でも、首が飛んでいくのは嫌よ。あぁ……あぁ! 悩みどころだわ!」
いやいや、悩んじゃダメでしょ。
首が飛んでいくんだよ?
この先生は天然なのかな?
「ペリドット様、本当にこのかわいらしい翼にそんな力が? さすが神様の授けてくださった聖獣です。この愛らしい姿からは想像もできません。あぁ……白いヒヨコ様もお菓子はお好きですか?」
ん?
いつの間にか学長が来ているね。
「黄色いヒヨコちゃんもかわいく見えるだろうけど、信じられないくらい強いから、なるべくなら怒らせたくないんだよね」
「黄色いヒヨコ様も力がお強いのですか?」
学長……
ヘラはお菓子をちらつかせても食いつかないよ。
天族だからね。
あ、ベリアルも天族だったね。
「うわあぁい! お菓子だお菓子だ!」
この声は?
ベリアルが帰ってきた?
眩しくないように離れた場所に空間移動したんだね。
気が遣えるヒヨコちゃんもかわいいね。
ぐふふ。
寝癖がたっているね。
堪らないよ。
さりげなく触らせてもらおうかな?
「ヒヨコちゃん、疲れていたんだね。もっとお昼寝した方がいいんじゃないかな?」
まだ二十分くらいしか寝ていないよ?
「大丈夫だ! お腹いっぱいになって眠くなっただけだからな。学長、このお菓子食べてもいいか?」
「はい。ヒヨコ様と食べたくてたくさん用意しました。ささ、休み時間のうちに食べましょう」
「うわあぁい! いただきます! モグモグモグモグ……」
「じゃあ、わたしは帰るわ。あ、そうそう(ゼウスの秘密を後で教えてね)」
ヘラは第三地区に帰るんだね。
これで、一安心だよ。
「うん。帰ったら話すね」
白いヒヨコちゃんの姿のヘラが窓から外に出て行くと木の陰で空間移動する。
はぁ……
良かった。
ヘラは激しいところがあるからね。
死人がでなくて良かったよ。