わたし、前だけを向いて生きていくよ
「すまなかった。わたしは……死んだ晴太郎の身体を使っていたのだ」
吉田のおじいちゃんが震えているのが分かる。
……あれ?
変な感じがした?
さっきのおじいちゃんの話……何か変だった……
……?
頭が、ぼーっとする。
まさか、記憶を操作された……?
そんなはずは……
「ぺるぺる……大丈夫か?」
おじいちゃん……?
悲しそうな……辛そうな顔……
「おじいちゃん……謝らないで?」
なんて言ったらいいのか分からないよ。
あまりに辛過ぎる生き方をしてきたおじいちゃんになんて言ったら……
「晴太郎……晴太郎はこれからもずっと第三地区にいてくれるんか?」
おばあちゃん……
泣いているね。
「皆が赦してくれるなら……そうしたい。わたしは……」
……!
おばあちゃんが吉田のおじいちゃんに口づけした!?
「晴太郎……なんだろう? 神様じゃなくて晴太郎なんだ。晴太郎はそんな口はきかねぇぞ?」
おばあちゃん……
泣きながら一生懸命話しているね。
「お月ちゃん……そうだ……そうだなぁ。オレは晴太郎だなぁ」
吉田のおじいちゃんも泣いているね。
皆も怒っていないみたいだし、一緒に泣いているよ。
これで、おじいちゃんはずっと第三地区にいられるんだよね?
良かった。
本当に良かったよ。
でも……
ペルセポネの身体に魂が無かった?
そこに息子さんの魂を入れ込んだ?
……お父様とお母様はどう思うのかな?
わたしの……ペルセポネの為だけにずっと頑張ってくれていたのに。
「……お父様……お母様……あの……」
上手く言えないよ。
「ペルセポネ……本当に優しい子ね」
「そうだよ。さすがはお父様とお母様の娘だね」
「え?」
お母様とお父様が優しく抱きしめてくれた?
「ペルセポネはペルセポネよ? ルゥだった時にも色々と悩んできたから……そんなペルセポネなら分かるはずよ? どれ程皆がペルセポネを、ルゥを、ルミを愛しているのかを」
お母様の言う通りだよ。
確かにルゥだった頃は聖女の身体を奪い取ったんじゃないかって悩んで……
ペルセポネだったと知った時は、月海の身体を奪い取ったんだってずっと悩んでいたよね。
そのたびに、皆がわたしを支えてくれたんだ。
「これからも、お父様、お母様って呼んでもいい?」
怖いけど……ちゃんと訊かないと。
今訊かないと……
先延ばしにしたら辛くて耐えられなくなりそうだよ。
「もちろんよ。かわいいペルセポネはお母様の宝物さんよ?」
「そうだよ。ペルセポネはペルセポネなんだから。今までと何も変わらないからね? お父様の宝物さんなんだから。だから、もう泣かないで? ね?」
「……うん。うん……ありがとう」
お父様とお母様の温もりに心まで温かくなる。
幸せだよ。
この幸せは皆が繋いでくれた幸せなんだ。
だから……わたしはちゃんと幸せにならないといけないんだ。
「ぺるみ……」
お父さん?
声の方を見ると、パパとママとハーピーちゃんもいる。
ハデスと種族王達もいるね。
皆、聞いていたのかな?
全然気づかなかったよ。
「お父さん……わたし……あの……」
「ぺるみ……ぺるみはもう分かっているはずだよ? ぺるみは皆から愛されているんだ。誰の魂かなんて関係ないんだ。だってどの身体の時も皆の大切なぺるみだったんだから」
「皆の大切なわたし?」
「そうだよ? 『初代の神の息子』の時は『神の大切な息子』で、『ペルセポネ』になってからは『天族の家族の大切なペルセポネ』で。『月海』になってからは『お父さんとおばあちゃんの大切な娘と孫』で、『ルゥ』になってからは『魔族の大切なお姫様』で……いつも誰かの大切な人だったんだよ? そして『ぺるみ』になった今は、今まで出会った全ての人の『大切な人』になったんだよ」
お父さん……
わたしがいつも誰かの大切な人だった……?
「そうだ……ペルセポネ……悩む事はない。今のペルセポネなら必ず乗り越えられるはずだ。ここにいる全員がペルセポネの『大切な家族』なのだろう? 同様に、ここにいる全員がペルセポネを大切に想っているのだ」
ハデスが心配そうな顔をしているね。
わたしが今まで何度もこの事で落ち込んできた姿を近くで見てきたから……
「ハデス……ありがとう。わたし、幸せだよ? こんなにたくさんの家族に囲まれて。本当に幸せだよ……」
わたし……
ずっと心が弱くて皆に迷惑かけてきたけど……
やっと前を向けたような気がするよ。
大切な家族の皆が支えてくれたから……
……でも……この違和感は……何?
吉田のおじいちゃんが記憶を操作したの?
でも、ここまできて何の為に?