あの公爵家に生まれれば誰でもあんな風になると思うよ
「今はまだ時ではないんだよ。公爵がしてきた罪を白日の下に晒したら……その時が公女の最期だよ。絶対に公爵が悪いという証拠が欲しいんだ。もしも忠臣だったら大変だからね」
お兄様には考えがあるんだね。
今、公女を罰したら今までの我慢や努力が無駄になっちゃうのか。
「……公女はまだアカデミーに通うのかな？」
「あぁ……領地には行かないと駄々をこねてね」
「ただ王宮に近づかせないだけの罪なの？ 軽過ぎないかな？」
「いや、罰金や公爵の謹慎、他にもいくつかね。公爵をしばらくの間政治から遠ざける事ができて良かったよ」
「公爵を政治から遠ざける事と引き換えに、公女は普通に生活させるんだね……」
「……すまない。ペリドットをあれほど侮辱したのに……」
「それが政だよね……」
「ペリドット……」
お兄様、そんな辛そうな顔をしないで？
責めているんじゃないの。
「……公女に会ってから考えていたの。最期まで嫌われたまま過ごすのかなって。処刑されても誰も泣いてくれずに……死んで良かったって言われるのかなって」
「ペリドット？」
「……わたしは……死んだの……だから思うの。友達は大切だよ？ 家族は大切だよ？ その気持ちだけですごく強く、優しくなれるんだよ？ 辛くても頑張ろうって思えるの。だからね？ その気持ちを教えてあげたいの。このまま知らずに命を失うなんてかわいそうだから」
「……そうだね」
「わたし……アカデミーで公女にそれを伝えられるかな？」
「公女は聞く耳を持たないだろうけど……それでもやるの？」
「うん。やらないで後悔するなら……ダメでもやってみるよ」
「深く付き合うと最期に辛くなるよ？」
「うん。……でも、やりたいの。更正させるなんて無理だけど……これが友達かって……それだけは教えてあげたいの。最期の時にわたしだけは涙を流してあげたい」
「……そうか。うん。そうか……」
上手くいくとは思えないけど、放っておけないんだ。
公女が善悪の判断がつかなくなるほどわがままに育ったのは環境のせいだから。
違う家庭に育てば処刑される事もなかったし、もっとまともに育ったはずだよ。
公女は変わらない。
産まれてからずっとああやって生きてきたから。
他人を侮辱して殴って傷つけているのに、殴られた相手は痛くないって思っているんだ。
……違うね。
自分以外は感情も無いし生きる価値も無いと思っているんだ。
そう育てられたから……
だから、おじいさんである公爵がわたしに攻撃されても自分では助けようともしなかった。
家族に対してもあの態度なら他人に酷い事をするのも納得だね。
無理なのは分かっているよ。
でも、やりたいんだ。
公女はあと一年も生きられないはずだから。
まぁ、簡単にはいかないだろうけどね。
明日はさっそくアカデミーで今日の憂さ晴らしをするんだろうし。
公爵が政治に関われない事なんてなんとも思わないだろうからね。
それにしても、毎日朝晩お兄様を煩わせていたのか。
大国の王様にそんな事をするなんて、すごい度胸だね。
恋は盲目っていうけど、これはさすがに怖過ぎるよ。
明日からはお兄様だけじゃなく、公女もゆっくり眠れるんだろうね。
たっぷり眠れば公女が優しくなったりして。
……それはないか。
