ずっと一緒に(1)
「お父さん。あれ? 新しいグリフォン王は?」
魔王城の砂浜に、魔王をしているお父さんとヴォジャノーイ族のおじちゃん三人が立っている。
「あぁ……さっきまでいたんだけど。魔王になるのは自分だって言って帰ってくれなくてね。一瞬だけ古代の闇の力を見せたら怖がって……」
「そうだったんだね……」
確かに一瞬だけ闇の力を感じたね。
「今は温泉の島で気持ちを落ち着けているはずだよ? 魚族長も一緒にいてくれているよ」
「新しいグリフォン王……闇の力が怖かったんだね」
「うん。かわいそうな事をしちゃったよ。見せただけで攻撃はしなかったんだけどね」
本当にお父さんは優しいね。
「魔族の世界は弱い者は生き残れないからな。己のレベルを早く分かって良かっただろう。いきなり寝首をかかれるよりは……な」
ハデスも種族王だったから大変さが分かるんだね。
「種族王は新しくなると揉めたりする事があるのかな? 今みたいに魔王に挑戦するとか……種族内でも色々ありそうだね」
「そうだな。揉めない方が珍しいだろうな。今回はウェアウルフ王も代わったが揉め事は無いようだ。ウェアウルフ族は皆、温厚だからな。新しいグリフォン王も、まぁそれなりに強いが魔王様の足元にも及ばないだろう」
……ハデスは冥王だけど、お父さんとどっちが強いの? なんて訊けないね。
この二人が本気でやり合ったらどうなるんだろう。
考えただけで怖いね。
お父さんは魔王だけど優しいし、ハデスは冥王だけどお父さんを尊敬しているし……
不思議だね。
でも、この関係は見ていて心が温かくなるんだ。
月海が大好きなお父さんと、わたしが大好きなハデスが仲良くしているからかな?
わたしの魂が月海になってルゥになって。
そして、今はペルセポネの身体に戻ったけど……
わたしは天界にいた頃のペルセポネとは別人みたいに身体が強くなったし、性格もまるで違う。
あの頃は皆に守られていて病弱だったけど、群馬ではおばあちゃんを守る為に頑張っていたし、ルゥの時はハデスの隣に立つ為に強くなりたかった。
わたしは、月海とルゥのおかげで心が強くなれたんだ。
「月海……ぺるみは天界にいる時間だけど大丈夫なの?」
お父さんが、わたしをぺるみって呼んだ?
「お父さんもぺるみって呼んでくれるんだね」
「うん。ペルセポネの最期の時の話を聞いたら月海って呼ぶのが……でも月海はお父さんにとってはいつまでもかわいい娘の月海だから。吉田のおじちゃんには感謝してるよ。『ぺるみ』なんてお父さんには思いつかなかったよ」
吉田のおじいちゃんか……
初代の神様だっていう事は話さない方がいいんだよね?
「……そうだね。えっと……天界で悪い天族をハデスが懲らしめてくれたの。だから、今お父様もお母様も忙しくて……」
「まだ悪い天族がいたんだね。ぺるみは平気だった? 嫌な事をされなかった?」
「魔王様、ペルセポネは冥王の妻として立派に対応していました」
ハデス……
恥ずかしいよ。
「そうなんだね。良かったよ。ボクは天界にも冥界にも入れないからね。……あ、天界には完全な天族しか入れないんだよね? じゃあ、ヴォジャノーイ族の頃のハデスの身体はどうなっているのかな?」
「そうですね。……あの弟に任せてよかったのか……」
ハデス……
真剣に考え込んでいるね。
確かに魔族のヴォジャノーイ族の身体は天界には入れないよね。
ファルズフみたいに水晶に入れたとか?
うーん。
今はどうなっているんだろう。
自分勝手だっていう事は分かるけど……
ルゥの身体と一緒にいてもらう事はできないかな?