この世界で推し活をしている人間に会うなんて
「うぅ……お兄様……恥ずかしいよぉ……立派な妹でいたかったよぉ」
ベリアルに興奮して鼻血を出すなんて……
「ペリドット……大丈夫だよ。鼻血が出ているペリドットもかわいいよ。お兄様も手伝っていいかな? 料金表? だっけ?」
「え? いいの?」
「政務にかまけて市場をなおざりにしてしまった自分が恥ずかしいよ」
「そんな……お兄様は忙しいんだから。それに、いつも申し訳なかったの。お兄様ばかりに大変な事を押しつけてわたしだけ遊んで暮らして……本当にごめんなさい」
「ペリドット……」
「今、リコリス王国には王族はお兄様だけで、全部を一人でしないといけなくて……だから……こっそりお手伝いしたかったの。それなのに、ドラゴンは呼ぶし鼻血は出すし……恥ずかしいよ」
「嬉しいよ。近いうちに王妃を選ぶつもりなんだ。(姉ちゃんの卒業を待っているんだよ? )だから、ペリドットの幸せも考えて欲しいんだ。でも、正直助かるよ。先代が何もしていなくて、やらなければいけない事が山積みなんだ」
「そうなんだね。お兄様はこのままわたしがアカデミーに通っても嫌じゃない?」
「そんな事は絶対に無いよ! 執務室に毎日遊びに来て欲しいくら……」
「本当か!? 毎日遊びに行くぞ!」
ベリアル……
食いぎみに反応したね。
そんなにお菓子が食べたいのか……
宰相はベリアルにメロメロだから毎日おいしいお菓子を用意してくれそうだよね。
「ヒヨコ様の大好きなお菓子をたくさん用意しておきますね」
「うわあぁ! オレ兄ちゃん大好きっ!」
はっ!
オレ兄ちゃん大好き
オレ兄ちゃん大好き
オレぺるみ大好き
ふふふ。
わたしとお兄様は双子だからね。
頭の中でしっかり変換させてもらったよ?
「……お前、鼻血がまた出始めてるぞ? 今度は何を想像したんだ?」
しまった。
ベリアルに気づかれたか。
「え? お兄様はわたしのお兄ちゃんでしょ? で、わたしは妹だから、お兄様が大好きならわたしの事も大好きっていう事でしょ? ぐふふ」
「うわぁ……気持ち悪っ! ほら、さっさと料金表を完成させるぞ!」
「うぅ……はい」
また呆れられちゃった。
でも呆れるヒヨコちゃんもかわいいねっ!
ぐふふ。
「姉ちゃん……お披露目の時となんか違うね。でも今の姉ちゃんも好きだよ?」
「そうだな。親しみやすいよな」
「こういうのをギャップ萌えと言うのよ!」
ん?
女の子の声?
しかもギャップ萌え?
この世界にもその言葉があるの?
手に『リコリス王大好き』って書いてあるうちわを持っている?
そういえば、前にもうちわを持ってお兄様に叫んでいる人間がいたよね。
あれ?
この女の子、誰かに似ているような……
誰だったかな?
アカデミーの制服を着ているね。
うーん?
赤毛で緑の瞳……
「ギャップモエって何? っていうかお貴族様なの?」
おぉ……
ジャックは普通に話しかけているね。
「貴族っていっても男爵家だから気を遣わないで! それに、同志を増やす為なら貴賤なんて関係ないわ!? とりあえずギャップ萌えを説明するわ! 普段は真面目で少し怖いくらいの人が親しい人の前ではデレな姿を見せる時があるのよ! その差のある姿に胸がキュンキュンする事がギャップ萌えなの! そう、今の神様の使い様のように! さぁ、君も……確かジャックよね、一緒に推し活を始めましょう!」
「オシカツ?」
「そうよ! 大好きな推しを応援するの!」
「えっと……え?」
さすがのジャックも付いていけないみたいだね。
あのうちわ……いいな。
ベリアルラブって書いて応援したいよ。