お兄様の作った市場は凄く素敵な場所だね
「もちろん! 皆で一緒にやってみよう? えっと……紙屋さんはあるかな?」
「はい! オレは紙屋です。いくらでも使ってください!」
「え? タダっていう事?」
「はい! 姫様、ぜひ使ってください!」
あぁ……
瞳を輝かせているけど……
「紙屋さん、お金は払わせて? この紙は、紙屋さんが一生懸命作ったはずだよ? 紙が綺麗なのも、クッキーがおいしいのも、歌が上手なのも市場の皆が頑張っているからなんだよ? お金はそれを作ってくれてありがとうっていうお礼の為にあると思うんだ」
「姫様……オレ達みたいな者の為にそんな……」
「紙屋さんが紙を作るところを今度見せて欲しいな。わたし、見た事が無くて。そうだ! 今度弟を連れて来たらその時に見せてもらえるかな? 弟は折り紙が好きなんだよ?」
この前、お父さんの誕生日の宴の時に色々作ったら喜んでいたんだよね。
「オリガミ?」
「うん! えっと……この紙を一枚買いたいんだけど」
「はい。嬉しいです! 『神様の使い様』に買っていただいた店として皆に自慢できます!」
皆、商売上手だね。
「ははは。わたしの名前で良かったらどんどん使っていいよ? 見て? こうやって……こう折ると……ほら、鶴だよ? えっと……リコリス王国には鶴はいないかな? おめでたい鳥なんだよ?」
「すごい! 一枚の紙でこんな複雑な物が作れるなんて!」
「ふふ。もっと簡単な物もあるよ?」
「あの……オリガミの折り方を教えてもらえますか? 紙だけだとなかなか売れなくて」
「うん。鳥だけじゃなくて色々作れるんだよ? ニホンには折り方の本もあるの」
「すごい! もしよければ……その本を譲っていただけませんか?」
あぁ……
群馬の物をあげるわけにはいかないよね。
ドワーフのおじいちゃんにお願いして作ってもらおうかな?
いや、今頃第三地区でベリス王が見ているはず。
もう作るつもりでいるかもね。
「えっと……国に帰って訊いてみるね?」
「はい! ありがとうございます!」
「じゃあ、皆で料金表を作ろう! 相談役も手伝ってもらえるかな?」
「はい。姫様……本当に……ありがとうございます。うぅ……」
相談役が泣き始めた!?
「泣かないで? どうしたの? どこか痛い?」
「違います……嬉しくて……ここまで親身になって……うぅ……」
今までよほど大変な暮らしをしてきたんだね。
このくらいで感謝してもらえるなんて……
「わたしは、皆と一緒にいると楽しいの。だから泣かないで? 相談役は皆から慕われているんだよ? その相談役が泣いていたら皆も悲しくなっちゃうよ」
「姫様……はい……ありがとうございます。うぅ……」
「ずっと頑張ってきたんだね。『自分が市場を守らないと』って考えて、責任の重さに押し潰されそうだったんじゃないかな? 貴族は皆を虐げてきたんだよね? 辛かったよね。でも、これからは少しずつだけど、状況が良くなっていくはずだよ? だから……相談役のおじいちゃん。……よく頑張ったね」
「姫様……うぅ……姫様ぁぁ!」
相談役が座り込んで声をあげて泣いているね。
ずっと辛かったんだ。
皆を守る為に苦労してきたんだね。
「じいちゃん……泣かないでよ。オレ、勉強して頭が良くなったらじいちゃんの手伝いをするよ! だから……その時は色々教えてね?」
ジャック……
本当に優しい子だね。
「ジャック、ありがとう。そうだな。これからは若い世代が市場を守っていくんだ。わたしが市場を守ってきたように、今度はジャックが市場を守っておくれ」
「うん! オレ頑張るよ!」
この市場にいると心が温かくなるよ。
お兄様の作った市場は凄く素敵な場所だよって早く教えてあげたいな。