コルセットのいらないドレスを着たいんだよ!
「ぺるみ様、いくつかお願いしたい事があるのですが」
ベリス王がわたしに?
毛量を増やす事以外にも?
「えっと……何?」
お金儲けに関わる事だよね?
「簡単な事です。アカデミーの休校日に四大国の貴族の為の洋品店の外を歩いて欲しいのです」
「え? ただ歩くだけでいいの?」
「はい。ハデス様とベリアルと三人で……ハーピーの息子もいれば尚良しです」
「ハーピーちゃんも? 何をさせたいの?」
「簡単な事です。ぺるみ様は令嬢用の、ハデス様は紳士用の外出着を。ハーピーの息子は赤ん坊用の服を着て宣伝して欲しいのです。もちろん声を出してではなく、歩き回ってからわたしの経営する店舗に入り買い物する素振りを見せるだけで良いのです」
「え? それだけでいいの?」
「はい。ベリアルにもかわいらしい衣装を用意しましょう。ぺるみ様好みの物を……」
「ええ!? 本当!? ぐふふ。かわいらしいベリアル……ぐふふふ」
「……ぺるみ様、大丈夫ですか?」
はっ!
ベリス王がニヤニヤしているわたしに呆れている!?
「うん……平気。ベリス王はわたしが喜ぶ事を良く分かっているんだね」
「商売をしていますからね。常に顧客の好みを把握していなければ店が潰れてしまいます」
「ベリス王は四大国で洋品店の経営をしているの?」
「はい。これからは、傘とボンネットを主力商品としていきたいのです」
「……あのさ、コルセットなんだけど、あれのいらないドレスを作れないかな?」
「コルセット無しの……ですか? それは無理かと。人間は『腰の細い女性が美しい』という意味の分からない生き物ですので」
「うーん。前にいた群馬のある世界でも大昔にコルセットがあったらしいの。でも今はほとんど着ている人はいなくなったの。コルセットは身体に悪いんだよ。今この世界の人間はコルセットだけを着けているよね? でも向こうの世界ではスカートを膨らませる為にドレスの下が大変な事になっていたの。赤ちゃんの歩行器みたいに……上手く言えないんだけどね。そのせいで座れないしドレスの裾が暖炉の火で燃えちゃったりしたの。その後、下着みたいなドレスが流行ったり、バッスルっていうおしりの部分だけを膨らませる道具も出てきたんだよ?」
「ほぉほぉ……なるほど。バッスル……と」
ん?
紙に何か書いているね?
まさか、今話した物を全部作ろうとしている?
「下着みたいなドレスとまではいかなくても、今みたいに重くて苦しくないドレスを作れないかな?」
「なるほど、ですが女性はそれを受け入れるでしょうか?」
「あんな苦しい物を着ていたいなんて人間はいないはずだよ? 誰かが楽で軽いドレスを着始めて、真似をして一度そのドレスを着たら……もう後戻りはできないよ。それほどコルセットは辛い物なんだよ? 息は苦しいし、おいしい物が目の前にあっても食べられないし」
「……では、在庫のコルセットが売り切れ次第そちらの販売に移りましょう。これは、また忙しくなりそうですね。ふふふ」
ベリス王は本当に商売上手だね。
在庫を全て売り切ってから新たな商売を始めるなんて。
これでコルセットとお別れできるね。
はぁ……
良かった。