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公女断罪(5)

「おじい様! 今すぐ傷を治します!」


 ……かわいそうに。

 そんな事はできないんだよ?

 公女は聖女じゃないんだから。

 それに、唾でもつけておけばすぐに治るよ?


「あれ? どうして? さっきはできたのに……」


「今の公爵の姿を見てどう思いますか?」


「……お前のせいだ! お前がおじい様をこんな目に……」


「公女がいつもクラスメイトにしている躾ですよ?」


「え? 違うわ。あれは扇子で軽く……」


「軽く? その木でできた扇子なら軽く殴ってもかなり痛いでしょうね」


「そんなはずないわ!」


「ではその扇子で殴られてみますか?」


「……! 嫌よ。痛そうだもの」


「公女は! 毎日その痛みをクラスメイトに与えていたのですよ!」


 つい大声になっちゃった。


「……だって、わたしは躾で……」


「誰一人として躾だなんて思ってはいません。『ただの憂さ晴らし』だと呆れられて……嫌われているのですよ?」


「そんな……」


「公女もある意味被害者ではあります。家族の偏った考えにより正しい判断ができなくなっているのです。だからといってクラスメイトに暴力を振るった事実は消えませんよ?」


「……っ」


「大切な家族の怪我を治すのでは?」 


「……やり方が分からないの」


「それは違います」


「え?」


「やり方が分からないのではなく、聖女ではないからできないのですよ?」


「わたしは……聖女よ。だからアカデミーで皆の怪我を治したの」


「違いますよ? 皆の怪我を治したのはわたくしです」


「……え?」


 必要ないけど一応祈りのポーズをして……

 公爵は嫌いだけどわたしが怪我をさせちゃったからね。

 治さないと。

 淡い光で公爵を包み込む。


「……? 痛く……ない?」


 公爵が起き上がったね。


「さすがは聖女だ! ついに我が公爵家から聖女が誕生した! ははは!」


 うわぁ……

 これは恥ずかしいね。

 公爵以外は皆違うって知っているんだよ?

 さすがの公女も慌てているね。


「違……あの……おじい様……」


「これで王妃の座は我が公爵家の物だ! ははは」


 やれやれ。

 困った人間だね。


「公爵は誤解をしています。公爵の傷を癒したのはわたくしです」


「はっ! 何を! そこまでして王妃になりたいか!」


 あぁ……

 公爵、全部自分に返ってきているよ?

 

「違うんです! 本当にその女が……わたしは聖女ではなかったようです」


「何を……そんなはずは……」


「わたくしは神様の使いです。聖女ではありませんが治癒の力があるのです。あ……」


 公爵は薄毛だったから毛量が増えたのが良く分かるね。

 一目瞭然だよ。


「ねぇ。公爵の毛量が増えているわよ?」

「確かに……これが神様の使い様のお力……わたしもして欲しい」

「頼めばしてもらえるのだろうか?」


 やっぱり、そうなるよね。

 だから商売の為に、ベリス王はベリアルにあんな事を頼んだのか。

 今頃ベリス王は笑いが止まらないだろうね。

 ん?

 あの影から見ているのはベリス王?

 ニヤニヤしているね。

 頭の中は毛量を増やす商売の事でいっぱいなんだろうね。

 でも、魔族はお金なんて使わないのにそんなに稼いでどうするんだろう?


「待て……」


 ん?

 今の声は……

 ハデス!?

 もしかして水晶で見ていたの?

 さっき向こうで光ったのはハデスの空間移動だったのか。

 用事が済んで来てくれたのかな?

 でもこの声、かなり怒っているみたいだね。


「ん? 白いヒヨコちゃんに連れて来てもらったんか?」


 吉田のおじいちゃん……

 ちゃんと設定を守っているね。

 でも、そんな事を言っていられないくらいハデスが怒っているよ?


「命が惜しくな……」


 うわあぁ!

 ハデスの『命が惜しくないようだな』だよ!

 口を塞がないと!

 

 ハデスの襟を引っ張って口づけをする。


「きゃああ!」


 ん、何?

 乙女の悲鳴?

 ……?

 あ!

 わたしってばいつもの癖でこんな大衆の面前で……

 恥ずかしいっ!

 

「公爵よ。今日のところは赦してやろう。だが、我がつ……婚約者を侮辱すれば命はないものと思え!」 


 妻を婚約者に言い直したね……

 アカデミーは既婚者は通えないからね。


「帰るぞ」

 

 今?

 ハデスと一緒に?


「え? もう帰るの?」


「用は済んだだろう」


 ハデスがわたしをお姫様抱っこするとベリアルが飛んで来る。


「きゃあぁぁ!」

  

 ん?

 また悲鳴?

 貴族の女性はこういうのに興奮するみたいだね。

 吉田のおじいちゃんがニヤニヤしながら近寄ってきたね。

 ベリス王は誰と来たのかな?

 置いて行って平気なの?


「皆、目を閉じて! 眩しくなるよ!」


 ん?

 マグノリア王はサングラスをかけたね。

 空間移動の光にすっかり慣れたんだね。


「(お兄様、王様達を国に送るのは二時間後くらいでいい?)」


「(頼むよ。ヒヨコ様にお菓子を用意しておくからね)」


「(うん。お兄様、大好きだよ?)」


「(オレも……大好きだよ)」


 ハデスに抱っこされたままお兄様と指切りをする。


 眩しい光に包まれると、第三地区の広場に帰って来ている。


 疲れた……

 とにかく疲れたよ……

 この後は市場に行って、王様達を送って、夜にはマリーちゃんとジャックの国に行くのか……

 先は長いね……

 

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