公女断罪(1)
「……先程アカデミーでリコリス王妃に内定したと話していましたね? 今、この場にてリコリス王に確認しても?」
少しかわいそうだけど、もう夢から覚める時間だよ。
公女は処刑されるんだ。
残された時間をこんな風に生きて欲しくないよ。
「もちろん! 陛下はこの時を待っていたの。さぁ民の前でわたしを王妃に迎えると言って!」
うわぁ……
見ている方が恥ずかしいよ。
「わたしは公女を王妃にと内定した覚えは無い。今の振る舞いを見れば国の母となる事は無理であろう」
お兄様……
厳しい表情だね。
「……!? 陛下!? そんな……だって……おじい様もお父様もわたしが王妃に決まったと……」
やっぱり公女は周りの大人の言う事を疑わないんだ。
それが当たり前になっているんだ。
言われた通りのレールの上をただまっすぐ歩いてきたんだね。
自分は偉いから、周りを見下して傷つけて生きろって教わってきたから、こんな風になったんだ。
「公女……今、この場で公女は王妃候補から外されました。己の行いのせいで……アカデミーでのわたくしの言葉を覚えていますか? 王妃とは民の母なのです。贅沢に生きるという事ではないのですよ? 王を支える一番の理解者でなければなりません。公女はリコリス王をただ疲弊させているだけです。分かりますか? もしそれが分からないようであれば、公女はただリコリス王に疎まれる存在になるでしょう」
もうすでに嫌われているみたいだけど、そこまで言ったらかわいそうだからね。
「陛下がわたしを嫌うはずがないわ? そうか……分かったわ。お前は王妃の座を狙っているのね!? だからそんな口を……赦せない! 陛下はわたしの物よ!」
……何を言ってもダメだってお兄様も言っていたけど、本当に公女は聞く耳を持たないね。
「公女? リコリス王は『物』なのですか? このリコリスは物が王なのですか? 公女を贅沢にわがままに過ごさせる為の道具なのですか?」
「そうよ! 陛下はわたしを美しく輝かせてくれる為の道具なの!」
……終わりだね。
「皆様、今の言葉はこの大国リコリスの王を侮辱したものです! これは到底赦される事ではありません! わたくしは現在リコリスアカデミーの学生です。つまり、リコリスの一員という事! リコリス王を物扱いした公女の罪を問うよう求めます!」
「は!? 何を愚かな! このわたしを牢獄に入れられるはずがないでしょう? おじい様が許すはずがないわ?」
「公女はリコリス王よりも祖父である公爵の方が地位が高いと思い違いを?」
「え? あ……それは……」
「リコリス王は『物』で、祖父である公爵こそが『王』である。そのように聞こえましたが?」
「……だって……おじい様が……いつも……」
「いつも?」
「だって……おじい様がいつも『この国で一番偉いのはおじい様だ』って言っているから……」
「それを聞いて変だとは思わなかったのですか? 公女は身分制度を知らないのですか?」
「だって……だって……おじい様が……」
「これからは家族以外の言葉にもしっかりと耳を傾けてください。周りから見れば公女の今の姿は異常ですよ?」
「異常? わたしが!? ふざけないで!」
「周りを良く見るのです!」
周りの人間達が公女を痛々しく、愚かだと思っている事に気づいて?
「……え? お前達……どうしてそんな目で見ているの……? わたしは悪くない……悪くなんて……おじい様! おじい様! 助けてください!」
……おじいさんは今ここにはいないのかな?
助けに来ないね。
まさか見限られた?