良いように使われた気もするけど、これで人間が豊かに暮らせるならまぁいいか
「確かに物々交換しているならお金は必要ないよね。そういう人間達に『今日から共通の硬貨を使いなさい』って言ってもなかなか受け入れられないだろうね」
「そうですなぁ。ですが共通の硬貨は今すぐにというわけではないのです。数代先の王に任せても良いとも思うのですよ。今は、生死に関わる小国をどうするかが問題でして」
……マグノリア王は共通の硬貨の問題点を訊き出したかったのか。
良いように使われた気もするけど、まぁいいか。
「できる事はたくさんあるよね。わたしが水を降らせたり、土に栄養を与える事は簡単だし、すぐに解決するからその方が王様達も楽だと思うよ? でも、それじゃあ、本当は何も解決できていないんだよ。いつも、困ったら誰かに頼っていたら自分じゃ何もできない人間になっちゃうでしょ? 自分達の国は自分達の力で守らないと。でも小国には難しいだろうから、最初に少しだけお手伝いしてあげたらどうかな?」
よく吉田のおじいちゃんが言っていたよね。
誰かに頼ってばかりいると誰もいなくなった時に一人で何もできなくなるって。
「最初に少しだけ……?」
「その国が他の国より優れているところを伸ばしてあげるお手伝いだよ? 遠回りに見えて一番の近道かもしれないよ? 皆が自国に誇りを持てれば全ての国がゆっくりだけど豊かになって、いつかは共通の硬貨が当たり前のように使われるようになるよ」
「聖女様……ありがとうございます。大国として小国に施す事しか考えていませんでしたが……それは思い上がりでした」
「あのね? 今夜、水を塞き止められた国の王様に会いに行くの。その国は宝石の加工が得意なんだって。でもデザインが古くて売れないらしいの。だから流行りのデザインを勉強してもらって、いつかはその国から流行が生まれるようになってくれたらって思うの。そうなれば、もうその国に対して水を止めるなんてできなくなるでしょ? それと……水を止めた国も貧しさからそうしたはずだよ? その国の事もきちんと考えてあげないと、なんの解決にもならないよね」
「全ての国が豊かに暮らせるようになるにはまだ時間がかかりそうですなぁ」
「そうだね。神殿に協力してもらいながら全ての国の人間が自分達の力で幸せに暮らせるようにしていけたらいいね」
「……聖女様は、まるで……全ての人々の母親のようですなぁ。常にまっすぐ前を向き、厳しくもある……ですがその厳しさの根源にあるのは優しさなのです」
わたしが人間達のお母さん?
常にまっすぐ?
うーん。
はっ!
ベリアルがクッキーを食べながら、マグノリア王に褒められたわたしを冷たいつぶらな瞳で見つめているね。
『こんな変態の母親なんてドン引きだ。皆騙されてるって教えてやりたい』
っていう顔をしているね。
ふふふ。
そんな事はさせないよ?
アルストロメリア王にはわたしが変態だってばれちゃったけど、デッドネットル王とマグノリア王にはまだばれていないからね。
このまま、凛々しい元聖女だって思い込ませておかないとね。