新しい事を始める時は色々大変だよね
「最後は……確か、マグノリアで四大国の王様達と会った時だよ?」
それからは、お兄様には会っていないよ。
「さすがは兄妹……同じ事を考えておられるとは……」
マグノリア王が呟いたけど……
「お兄様も同じ事を言っていたの?」
「はい。各国が落ち着くまでは物々交換のようにして、共通の硬貨を作りいずれはその硬貨でどの国も平等に、搾取される事無く安定した暮らしができるようにと……ですが……」
「うん。分かるよ? かなり時間がかかるんだよね。まず、共通の硬貨っていうのも難しいよね」
「……聖女様は、どちらかで特殊な教育を?」
「え? マグノリア王?」
まさか、群馬で義務教育とかを受けていた事?
でも、それを知っているはずがないよね?
「聖女様は、共通の硬貨のどの辺りが難しいとお考えですかな?」
マグノリア王はわたしを試しているのかな?
「そうだね……まず金貨だとしたら純度の問題もあるよね。大国で作った金貨と小国で作った金貨で純度が違えば、皆が大国の金貨を溜め込む事は目に見えているよね。それから、偽物の金貨も絶対に出回るはずだよ? その金貨で安い物を買ってたくさんお釣りをもらう……そのお釣りは本物の銀貨だったりするから、詐欺師は大儲けだよね。裕福でない小国は自国で金貨を作れなくて、物々交換もできなければもう生きてはいけなくなる。だからって、大国が全ての硬貨を作って世界中に行き渡らせるにはかなりの量の金や銀、職人が必要になる。その負担を大国が負えば世界は回らなくなっちゃうよね」
「……そうですなぁ。大国は小国の助けになる存在である為にもなるべくなら金貨等の製造を全て引き受ける事はしたくはありません。正直、今の段階で手一杯なのです」
「共通の硬貨はすごく良く思えるよね。でも、実際はそうでもないんだよね。自国だけの硬貨だったら国の負債があっても硬貨をどんどん作ればなんとかなるけど共通の硬貨だとそうはいかずに借金だけが増えていく……そして破綻する。なんて事も起こるよね? どんどん共通の硬貨を作らせると国の均衡が崩れるから国によって共通の硬貨を作る枚数を制限するんだよね? 税金も国によって違うはずだし、そうなると商人達は税金の安い国に流れていく可能性もあるよね?」
「……確かに、そうですなぁ。貴族は領地がある為、他国に出ていく事は無いでしょうが、商人は税金の安い国に流れていくでしょうなぁ」
「だからって商人を国から出てはダメだって閉じ込めたらかなりの反発が予想されるよね」
「はい。それに、商人が納める税金は他国との取引による物も多いのです」
「共通の硬貨は全ての国が同じ位の裕福さだったら問題ないけど格差があると上手くはいかないんだよね。一見すごく良い事に思えるけど簡単にはいかないと思うよ。『大国で銀貨一枚で買えるケーキ』を大国の民は普通に買えるかもしれないけど『小国で銀貨一枚で買えるケーキ』を小国の民が買えるとは思えないからね」
「格差……ですか。いつか世界共通の硬貨をと大国の王で話し合ってきました。そして、今がその時だと考えたのです。ですが……困りました。今新たな共通の硬貨を作っても上手くはいかないでしょうなぁ。全ての国が豊かになってからでなければ……」
「うーん。今は大国は共通の硬貨を使っているの? 確か、微妙に絵柄が違うんだっけ?」
「はい。偽造されないようにそれぞれの国で絵柄が違いますが、四大国間では硬貨の価値は同じです。ですが小国ではほぼ物々交換の地域もあり、地方では硬貨を使い買い物をするという考えの無い場所もあるようですなぁ」
うーん。
やっぱり、共通の硬貨が受け入れられるのはまだ先になりそうだね。