吉田のおじいちゃんは強靭な精神と肉体のおかげて若く見えるんだよと嘘をつく
「じゃあ、今度こそ。えっと王様と、あとは誰が来るのかな?」
空間移動は怖いみたいだからね。
皆付いて来たくないよね。
「わた……わたしが……行きます……」
おぉ……
この男性はガタガタ震えているね。
王様と同じ五十代くらいの年齢かな?
「あの……心配しなくて平気だよ? この世の中に絶対なんてないって思うよね? 空間移動が失敗したらどうしようって心配になるのは分かるよ? わたしもルゥの身体の時に初めてした時はすごく怖かったから。でも、安心して? 身体が裂けてもわたしが治すから! 息さえしていれば治せるはずだから!」
さすがに死者を蘇らせる事ができるなんて言えないからね。
ハデスの話だと、蘇生は亡くなってすぐにしかできないらしいんだよね。
この世界は土葬だから、その埋められた遺体が骨になった状態で掘り出して生き返らせようとしても無理なんだって。
もう魂も身体には無いし、肉や血管、内臓が存在しないと治癒の力を使っても肉体は再生されないらしい。
今その場にある骨のひび割れが治るくらいなんだって。
今、生きている誰かが酷い切り傷を受けたとして血管や肉は治癒の力で治せるけど、腕を切り落とされて、その腕が無い場合はもう生えてくる事はないらしい。
っていう事は切り落とされた腕があれば、元通りにつけられるっていう事だよね?
「息さえしていれば……ゴクリ」
王様が深刻な顔をしているね。
「よし、じゃあ二人だけでいいんだな。考えたって仕方ないだろ? 行くしかないんだから! それに、最後に行くマグノリアの王は優しいからな。絶対お菓子をくれるはずだ! えへへ」
「ふふ。ヒヨコちゃんはマグノリア王が好きなんだね」
「うん! この前、じいちゃんの踊りを素晴らしいって褒めてただろ? オレ、じいちゃんの事が大好きだから、じいちゃんを褒めたマグノリアの王は嫌いじゃないぞ?」
「そうだったね。あの時は扉を開けたら吉田のおじいちゃんがふんどし踊りをしていて驚いたよね」
「オレ、じいちゃんが側にいてくれると楽しくて嬉しいんだ!」
「そうだね。わたしもだよ?」
ベリアルは吉田のおじいちゃんに完全に餌付けされているからね……
「おじいちゃん……? あの時ほぼ全裸で踊っていた救世主様の事でしょうか? おじいちゃんと呼ぶには、ずいぶんとお若かったような……?」
そういえば、王様もあの場にいて見ていたんだよね。
「えっと……強靭な精神と肉体のおかげですごーく若く見えるんだよ?」
「ぷはっ!」
ん?
今のは……どこかに吉田のおじいちゃんが隠れているみたいだね。
全部見ていたんだね。
出て来たらアルストロメリア王が喜ぶと思うんだけどな。
「救世主様は……魔族だったのでしょうか? 聖女様の近くに住んでいると聞きましたが……天使様ではなかったのでしょうか?」
そうだよね。
この国では吉田のおじいちゃんは『伝説のお犬様にまたがった天使様』っていう事になっているからね。
「うーん……おじいちゃんは魔族じゃないよ? わたしが魔族と暮らしている島の隣にもうひとつ島があってね? そこにおじいちゃん達が暮らしているの。だから、ご近所さんっていうのは本当なんだよ?」
「そうなのですか……では我がアルストロメリアを救ってくださった『救世主様』とは別人なのですね。人ならば天使様ではありませんから……ですが、神々しくて救世主様だと……」
王様は残念そうだね。