どこの国にも救世主はいるんだね
「確かに司教は、ずる賢くて偉そうで神聖物が偽物だってばれていないと思っていた愚か者だったけど、今は違うよ? 色々あってそうするしかなかったっていうのもあるし。あのね? さっき、きちんと自分達の罪を認めて……四大国の犬になるって言ってくれたの」
「え? あの偉そうな司教がそう言ったのですか?」
王様は司教があまり好きじゃないみたいだね。
ずっと偽物の神聖物を押し付けられてきたから当然かな?
「うん。でもね……司教がわたし以外で最後の神力を持つ人間なの」
本当はお兄様がいるけど、記憶を操作されているからね。
それにお兄様の子には神力は受け継がれないから、お兄様の代で人間は完全に神力を失うんだよ。
「え? それは……? もう他には神力を持つ者がいないという事でしょうか?」
「最近では神力を持っていたのはルゥとルゥの母親と司教だけだったらしいの。でも、ルゥもルゥの母親も亡くなったから……」
「もう……神力を持つ者は誕生しないと……?」
「うん。そうみたいだね。わたしは……人間じゃないみたいだし……」
天族だなんて言えないよね。
「人間ではない……ですか……?」
「確かに神殿は悪い事をしてきたよ? でも、今、神殿を罰するのは得策じゃないよ? 民は神殿を神様と同じ様に大切に思っているからね」
「……最後の神力を持つ者を処刑した暴君になる……ですか? 民は今回の偽の神聖物の件で神殿と王のどちらを信じるか……という事ですね?」
あぁ……
王様は神聖物が偽物だって普通に言っちゃったね。
「アルストロメリア王は良い王様だよ? この前来た時に民が楽しそうに笑っていたからね。だけど国を治める為に時には厳しくしなければいけない時もある。でも神殿はそうじゃない。民に甘い事だけを囁けば良いんだから。そんな姿に民は『王様よりも優しい神殿』って考えちゃうんだよ」
辛いけどそれが現実だよね。
「……聖女様、そうですね。神殿は民を持ちません。王とは違うのです。民に対する責任が無いのです」
「だからって今までの神殿の罪を赦すなんてしなくていいんだよ? 悪い事をしたのにそのまま逃げるなんてあり得ないでしょ?」
「それで……犬……ですか……?」
「うん。まぁ今の四大国の王様達なら司教の命までは奪わないでしょ? 細く長く犬にすればいいよ」
「……ははは! 聖女様はなかなか愉快な考えの持ち主ですね」
「それから、もうひとつ……神殿に救世主が現れたの」
「え? 救世主様……ですか? まさか……伝説のお犬様と天使様ですか!?」
あぁ……
大昔にこの国を救ったっていうあの伝説の……か。
冥界のケルベロスがお犬様で、お父様と人間との間に産まれた息子が天使様らしいね。
わたしの腹違いのお兄さんか。
今も生きているのかな?
もし生きているなら会えたら嬉しいんだけど。