公爵は狡猾なだけではなく優しい人間だと気づく
「公爵……鏡……見た?」
半日で別人みたいに若返っているよ!?
「はい。嬉しくて、ずっと鏡を見ていました」
なるほど。
自覚はあるみたいだね。
すごく嬉しそうだね。
顔色も良いし、体内の毒に薬が効いているみたいだね。
でも、そんなにすぐに効くものなの?
「薬が強過ぎる事は無いはずだけど……パパは薬草に詳しいの」
「パパ……とは魔族の……でしょうか?」
「うん。すごく優しいんだよ? 薬を飲んでくれたんだね。嬉しいよ」
「ペリドット様のご家族です。信じないはずがありません」
「公爵……ありがとう」
「こちらこそありがとうございます」
ふふ。
初めての公爵とのティータイムは腹の探り合いだったけど、今は仲良くなれた気がするね。
「公爵は……毒を……その……」
なんて言ったらいいのかな?
『毒を盛られていたの? 』なんて訊けないよね。
「ペリドット様の想像通りです。わたしは幼い頃から毒を飲まされていました。カサブランカのおかげでそれに気づく事ができたのです」
「おばあ様のおかげで?」
「はい。ですが、薬を服用しても体内から完全に毒が消える事は無く……常に身体が重かったのですが、お父上の薬を飲んでからは今までが嘘のように身体が軽いのです」
「顔色も良いし安心したよ。でも、もうしばらく飲み続けてね?」
「はい。お父上にお礼をしたいのですが……」
「ふふ。わたしからすごく喜んでいたって伝えておくね」
「……見返りを求めないのですね」
「え? 見返り?」
「はい。人間は……特に貴族は常に見返りを求めます。ですが……ペリドット様もご家族も決して見返りを求めない……」
「……今わたしが暮らしている家族は、皆穏やかに仲良く暮らしているの。身分とかも関係なく……足の引っ張り合いも、傷つけ合う事も無いし。皆で助け合いながら暮らしているの」
「楽園のような所なのですね」
「そうだね。すごく大切な場所で……皆の事が心から大好きなの」
「ペリドット様……幸せなのですね」
「うん。すごく……すごーく幸せだよ」
「ペリドット様は……このアカデミーの騒動が落ち着いたら……もう人には……関わらない方が……」
「……うん。わたしも、そう思っているよ? 今回の事件に関わったのは、お兄様への恩返しなの。大勢の前に姿を現すのはこれが最後だよ」
「……ペリドット様を『人の世界』の醜い争いに巻き込みたくないのです。まるで……どこまでも透き通る色の無い海のようなペリドット様を……醜い人の色に染めたくないのです」
「公爵……ありがとう。あの時、女神様が公爵を選んだのは公爵が優しいからなんだね」
お母様も公爵が優しいから選んだって言っていたよね。
公爵は狡猾なところもあるけど、それはアルストロメリアからリコリスに来て、生き延びる為にそうなるしかなかったからなのかもしれないね。