冥界のお仕事と禁断症状
今回はハデスが主役です。
「冥王様! 大変です! ペルセポネ様に禁断症状が!」
「何!? またか!?」
冥王としての仕事中(ただ玉座にいるだけ)にケルベロスが慌てて駆け込んでくる。
ルゥはペルセポネの身体に戻り冥界に来てから、身体の震えと動悸息切れの症状が何度も出ている。
冥王城の長い廊下を走って、ペルセポネの部屋に急ぐ。
「ペルセポネ! 大丈夫か!?」
ベットに横たわり苦しそうにしている。
大変だ。
まさか、身体が魂を受け入れていないのか?
「ハデス……ごめんね……わたし……また……」
「苦しいか? 今、薬をやろう……」
「……うん。ありがとう……」
神力……と言っても闇に近い力がわたしの身体を包み込む。
そして、黒いモヤが消えると……
顔の大きさくらいの真っ白い、毛玉の姿になる。
キラキラの黒い瞳にフワフワの毛並み。
犬のような耳にフサフサのしっぽ。
「さぁ、好きなだけ撫で回すがいい!」
「うわあぁい! やったぁ!」
ペルセポネが毛玉の姿のわたしを撫で回す。
ああ……
愛しいペルセポネがわたしを吸って撫でて愛でてくれる。
なんという快楽だ!
しっぽの揺れが止まらない。
ペルセポネがその揺れるしっぽを顔に当てフワフワの感触を楽しんでいる。
「ハデス! ハデス! 大好きだよ!」
ペルセポネ……
色々あって大変だったが、やっとあるべき場所に帰ってきたな。
「……冥王様、なんというお姿……しっぽがお揺れに……」
ケルベロスよ……
仕方ないのだ。
この揺れは自分の意思では止められないのだ。
「ああ……大満足だよ! ありがとう、ハデス」
昨夜、ルゥの身体から本来の身体に戻ったペルセポネは色々あって冥界で夜を過ごす事になったのだが……
一時間に一度、モフモフの禁断症状が出て、そのたびにわたしが毛玉の姿になっている。
これはどういう事なのか。
ペルセポネに一体何が起きているのだ?
そういえば、数千年前に冥界で共に過ごしていた時に、何かモフモフとした生き物が天界から付いてきていたような……?
ペルセポネと冥界で暮らしたのは一か月程だったからな。
よく思い出せない……
「ハデス……お仕事中にごめんね?」
「大丈夫だ……」
玉座にいるだけだからな。
天界からの使者に睨みを利かせればいいだけだ。
「冥界では皆、悪しき心を持たずに過ごしているから、揉め事も無い。天界からの訪問者の相手をするくらいだからな」
「ええっ!? そんな事はないのですが!?」
「オレが毎日どれだけ大変か!」
「眠る暇もないのに!」
ケルベロスの三つの頭が騒ぎだしたな……
「ケルベロスよ。何か文句でもあるのか……?」
「「「ありませんっ!」」」
「そうだろう……」
毛玉の姿のわたしを抱きしめているペルセポネが、同情の瞳でケルベロスを見つめている……
数千年前もこうだったな。
とりあえず天界からの使者を睨んだら慌てて帰って行ったし、ずっと毛玉の姿でいるとするか。
毛玉の姿で六時まで過ごし、デメテルに第三地区に来てもらいこの症状が何なのかを訊かないと。
悪い病でなければいいが……
あぁ、心配だ。
心配……なのだが……
吸われ、撫でられる快感にしっぽの揺れが止まらない。
ケルベロス……
わたしの揺れるしっぽを見つめて呆れた顔をするのは……やめろ。