悪い事をしているといつかばれるかもってビクビクしながら暮らす事になるんだよ
「条件……ですか?」
司教の表情がこわばっているね。
さすがに、他の神官もいるこの場で『四大国の犬になれ! 』なんて言えないよね。
「うん。わたしが決める事じゃないけど……ちゃんと『ごめんなさい』って謝って赦してもらおう? 次の世代の神官に辛い嘘をつかせない為にも」
「次の世代の神官に……わたしと同じ道を辿らせない為に……」
「わたしも一緒に謝るから。一応聖女だったからね」
「聖女様……わたしは……処刑……されるのでしょうね」
「……覚悟していたんでしょ? いつかばれたらって毎日不安だったんでしょ?」
「はい。これでやっと楽になれます」
「……楽にはなれないと思うよ?」
「……! 苦しみながら死を迎えるという事でしょうか……」
「うーん。『神力を持つ最後の司教』を処刑になんてしたら『名君』じゃなくて『暴君』になっちゃうよ? 世界中の人間は神官を尊敬しているからね。今までの罪を話したところで信じない人間も多いはずだよ? それに、司教にはしてもらわなければいけない事があるんだよ?」
「わたしが……する事……?」
「うん。今回の巡礼はこのリコリス王国が最初なんでしょ? だったらちょうどいいね。この巡礼で『自分が最後の神力を持つ神官だ』って皆に話してきて?」
そうすれば今、世界中にいる聖女も偽者だって分かるよね。
「え? ですが……そんな事をしたら……神殿の威厳が……」
「今まで、嘘をついてまで守り続けた神殿は……民に愛されているんだよ。それを感じる巡礼になるはずだよ?」
神官に神力が無くなる事を民には黙っておこうと思っていたけど……
それだと、司教にもこれから神殿を支える神官にも負担が多くなりそうだからね。
「聖女様……」
「怖いでしょ? 『石を投げられるんじゃないか、罵声を浴びせられるんじゃないか』ってね。確かにたくさん嘘をついてきたけど……それを知らせる必要は無いんだよ? 司教はただ『もう神力を持つ者は自分だけになった。でも、神官に神力が無くても神様を敬う気持ちは変わらない。民が神様を敬うように我ら神殿も神様を大切に想っている』って伝えればいいんだよ?」
「神様を大切に……想っている……」
「そうだよ? わたしは神様に、この身体を授けられたからもう『聖女ルゥ』じゃないから……司教が最後の神力を持つ人間なんだよ? その言葉に腹を立てる人間なんていないよ?」
あれ?
もしかして、吉田のおじいちゃんはこの為にお兄様には神力が無いっていう記憶操作をしたのかな?
「聖女様……わたしは……わたしは……いつからこんな……愚か者に……情けない……」
「ずっと同じ環境にいるとその場に染まらないと生きていけないんだよ。その場所が閉鎖的なら、なおさらね」
「聖女様……偽の神聖物に関しては、ただひたすら謝る事しかできませんが……属性検査は……間違えていましたか?」
「え? 適当に属性を言っていたんじゃないの?」
「遥か昔の司教がかなりの神力を持っていまして、その神力を注いだ水晶に手を触れると各属性の色に輝くようになっていて……こちらです」
立ち上がった司教がフラフラと歩き始める。
確かに水晶があるね。
うーん?
精霊がいる。
下位精霊か……
小さい妖精みたいな容姿だね。
「司教? 精霊がいるよ? 見える?」
「え? 精霊が?」
神力があっても精霊の姿は見えないみたいだね。