道端で怪しげな魔法使い風のローブを着ている人から怪しげな杖を買ってはいけません
ベリアルは学長に抱っこされて温泉まんじゅうに夢中になっているからね。
集中して治癒の力を使えるよ。
一応それっぽく見せる為に祈りのポーズをしておこう。
アカデミーの中だけ……
怪我だけを治す……
やっぱりペルセポネは神様と女神様の娘だね。
ルゥの時とは神力の量が全然違うよ。
「……なんとお美しい」
学長の呟きが恥ずかしくて、くすぐったいけど我慢我慢。
「学長、終わったよ? これで皆の怪我は治ったはずだよ?」
ルゥの時は治癒された生き物は眠くなったけど、ペルセポネに戻ってからはそれも無いみたいだね。
「素晴らしい……なんという神々しさでしょう。殿下の周りが淡い光に包まれて……夢の中にいるような不思議な感覚でした」
「わたしのせいで皆を驚かせちゃったね。ごめんね」
「あの……殿下は、本日他国から入学された王女様……なのでしょうか?」
ん?
さっきの魔法使い風の男性だね?
「えっと……そうだよ?」
学長に敬語を使わないのに、この人間に敬語を使ったらおかしいよね。
「殿下は、魔術が使えるのでしょうか?」
「え? あぁ、うん。使えるよ?」
「今の魔術は光魔法でしたがっ! あのっ! 他の魔術はっ!?」
「え? あぁ……うん。使えるよ?」
ぐいぐい来るね。
瞳がキラッキラに輝いているよ。
「例えばっ! たとえ……! うぐっ」
うわあ……
興奮し過ぎて酸欠みたいだね。
「先生……落ち着いて息をしないと……顔色がまずい事になっているよ?」
「すぅ……はいっ! 治りました!」
いやいや……
治っていないよ?
顔色は悪いままだよ?
「先生は魔術科の先生なの?」
「はいっ! ドラゴンが現れたので倒しに来ましたっ!」
「え? 本気で言っているの?」
天然なのかな?
あの数のドラゴンをどうやって一人で倒すつもりだったのかな?
「はいっ! 臨時ボーナスが本日出る事になりまして、昨日のうちにその知らせが来たものですから、すぐに新しい魔法の杖を買いまして! この杖は詠唱すればどんな上位精霊様も簡単に呼び出せる杖なのです!」
ん?
詐欺に遭ったのかな?
というか、そのボーナスってわたしが昨日学長に渡した先生方へのワイロだよね?
この世界にもクーリングオフってあるのかな?
杖を返品しないとね。
「えっと……先生は魔術はどうやって使えるか知っているのかな?」
わたしの知っている方法と同じかな?
「はいっ! 詠唱をすると精霊が力を貸してくれます。生まれながらに魔力がなければ精霊は力を貸してはくれません」
うん。
同じだね。
「先生はその杖を持って詠唱すると上位精霊を呼び出せるって誰かに言われて買ったのかな?」
「はいっ!」
完全な詐欺だね。
まさか、ベリス王じゃないよね?
……さすがに違うよね。
「……残念だけど偽物みたいだよ?」
「え? まさか……そんな……」
「良かったね。わたしの知り合いのドラゴンじゃなければ今頃……」
「ですが……見るからに魔法使い風の真っ黒いローブに、肩にカラスを乗せている者が道端で売っていたので絶対に本物ですっ!」
「え? 道端で買ったの?」
「はいっ!」
「……詐欺だよ?」
「え?」
「いくら払ったの?」
「ボーナス全額を……今日支払う約束に……」
「今日? 昨日じゃなくて?」
「はい……」
「偽物だからお金は払いませんって返品しないとね?」
「ですが! 昨日この杖を使ったら魔術を使えましたし本物の可能性も……」
「元々先生は魔術を使えるんだよね? 杖とか関係なく使えたんじゃないかな?」
「え?」
「先生は昨日、上位精霊を呼び出したの?」
「いえ……杖を買った時に『いきなり上位精霊様を呼び出すと疲れるから慣れるまでは今までと変わらない精霊様を呼び出しなさい』と言われて……」
「典型的な詐欺だよ……先生……」
かわいそうに。
純粋な人間なんだね。
「ですが……本物だと言われて……」
「先生……お金を払う前に気づけて良かったんだよ? 先生は優しいから騙されちゃったんだよ」
「ですが……」
「じゃあ……今上位精霊を呼び出してみたらどうかな?」
「え? 今……ですか?」
「うん。さっきドラゴンを倒そうとしたんでしょう? 上位精霊を呼び出そうとしたんだよね?」
「はい……」
「お金を払う前に試してみよう? ね?」
わたしが渡したワイロで偽物を掴まされるなんて絶対にダメだよ。
「はい……では……」
先生がしぶしぶ詠唱を始める。
おお……
これが詠唱か。
魔法使いっぽい服を着ているからカッコいいね。
どんなすごい魔術を使うんだろう?
ワクワクするよ。