自らを俗物という学長だけど……立派な人間だと思うよ?
はぁ……
さっきの騒ぎを見ていた学生達の視線を感じながらアカデミーの学長の部屋に向かう。
ノックしようと手を伸ばすと部屋の中からすごい勢いで扉が開く。
「殿下! ささ、中へどうぞっ!」
おぉ……
学長の笑顔が輝いているね。
昨日たっぷり黄金の寄付をしたからね。
ヴォジャノーイ王が金塊を賄賂に使って欲しいってたくさん持ってきてくれたんだよね。
ヴォジャノーイ王国はハデスが王様だった時に色々な貢ぎ物をされて、その中に黄金の洞窟もあったみたいなんだ。
「学長、朝早くからありがとう。今日の迎えはドラゴンが来る予定だからよろしくね?」
「はいっ! え? ドラゴン?」
まぁ、そうなるよね。
「間違えてドラゴンを攻撃しないように皆に伝えて欲しいの。お願いできるかな?」
「え? 本当にドラゴンが来るのですか?」
「うん。迎えに来てくれるの」
「え? え?」
「嘘つきみたいに思うかもしれないけど、本当だから、驚いて怪我をしないようにも伝えてね?」
「殿下……黄金の国ニホンではドラゴンと暮らしているのですか?」
「そうだよ? 皆、すごく優しいの。でも、いきなり攻撃されたら反撃してリコリス王国が滅亡しちゃうかもしれないから気をつけてね?」
「……滅亡? この大国のリコリスが?」
「ドラゴンだからね? 一瞬だよ?」
「……お迎えに来るのはドラゴン以外というわけには、いきませんか?」
「今日はドラゴンだね」
「あぁ……アカデミー側でタウンハウスを用意するというのは可能でしょうか?」
「うーん。そうなるとドラゴンが毎日会いにくるかも」
「え? それは困る……」
「学長はわたしが嘘をついているって思わないの?」
「昨日ヒヨコ様に光と共に消える力がある事をこの目で見たのです。この目でっ! この目がっ! はぁはぁ……昨日は興奮して眠れませんでした。しかもヒヨコ様が神様から授けられた聖獣とは……もう興奮が抑えられません!」
学長は高齢だけど、心配になるくらい興奮しているね。
大丈夫かな?
「えっと……落ち着いて?」
「あぁ……申し訳ございません。はぁはぁ……殿下が嘘をつく必要が無い事はわたしにも分かります。殿下が『あのお方』だという事はすぐに分かりました。ドラゴンに乗って空を飛ぶ人は『あのお方』しかおられません。何か事情がおありなのでしょう。いつか話していただける時を待ちます」
「学長……」
昨日の時点でわたしが王妹のルゥだって気づいていたんだね。
「殿下のおじい様であられる先々代の陛下には大変お世話になったのです。先々代の陛下は常に民を思いやる素晴らしい王でした。名君……それは陛下の為にあるような言葉でした」
「おじい様……か。お父様は酷い王だったみたいだね」
「それはわたしの口からは……」
「そうだね。不敬になっちゃうね。学長……ありがとう。お兄様の願いを叶えてくれて」
お兄様の望みを叶える為に、学長が平民をアカデミーに受け入れてくれたんだよね。
今までは貴族の為のアカデミーだったから反発もあったはずだよ。
本当にありがたいよ。
「『リコリス王国は常に民の幸せと共に』先々代の陛下の口癖でした。まるで……陛下が蘇った……いえ……現在の陛下は、あの頃の……先々代の陛下を彷彿とさせます」
「……そうなんだね。学長みたいにお兄様を支えてくれる人間がいて嬉しいよ」
「殿下、殿下もではありませんか? 『頑張っているお兄様を助けたい』そう思われているのではありませんか?」
「うん。そうだね。……わたしが金塊を持ってきたから学長が親切にしてくれているって思った自分が恥ずかしいよ。金塊を持って帰ろうかな?」
「……」
「やっぱり、不快だったよね? これ見よがしに金塊なんか出してきて……本当にごめんね」
「殿下、そのような事は……」
「今、金塊を引き取らせてもらうよ。本当にごめんね」
「殿下、大丈夫です」
「でも不快だったよね? 自分が恥ずかしいよ」
「殿下……わたしは……わたしは……俗物なのです」
「え? 俗物?」
「はい。偉そうに先々代の陛下を語りましたが、本当は金塊に目が眩んでいます! 申し訳ございません!」
「えっと……そっか……うん。あはは……」
「はい……ははは……」
「「……」」
気まずいったらないね。
まぁ、学長がどんな人間か分かって良かったよ。