美しい世界で大切なハデスと一緒に
「じゃあ、今日は冥界で過ごす日だから帰るね」
昨日皆で話し合って冥界、天界、第三地区の順で夜を過ごす事に決まったんだよね。
アカデミーに通うと一日の三分の一ずつをそれぞれの場所で過ごすのは難しいからね。
「ぺるみ、久々の学校だからって緊張しねぇでぐっすり眠るんだぞ?」
「うん。ありがとうおばあちゃん」
「明日は朝から皆でかわいくしてやるからな? 群馬の学校と違って女学生は化粧して綺麗にしていってるみてぇだからなぁ」
女学生……
「うん。ありがとう。また明日ね? おやすみ」
こうして冥界に戻ると冥界の門の外側に着く。
「ああ! お帰りなさい! ペルセポネ様ぁ!」
ケルベロス……
今日も一人で冥界の仕事をしていたんだね。
「うぅ……ペルセポネ様だけがわたしの癒し!」
見ていてかわいそうになるよ。
ケルベロスは三つ頭があるけど皆、性格が違うんだよね。
左の子は温厚で敬語を使ったり使わなかったりで、真ん中の子はずっと敬語を使ってすごく真面目。
右の子は疲れると呪文みたいに話し始めて敬語は使わない。
この子だけ『オレ』って言うんだよね。
あ、でも返事は『はい』だね。
それぞれ違うかわいさがあるけど、甘い物が好きなのは皆同じなんだよね。
「はい。おばあちゃんがタルトを作ってくれたよ? 皆で食べよう?」
「「「はい」」」
ふふ。
ケルベロスはかわいいなあ。
すごくおいしそうに食べているよ。
「ペルセポネ様は明日からアカデミーとやらに通われるとか。心配です」
「そうです。人間の貴族とやらは意地が悪いらしいので。かわいいペルセポネ様が嫌な気持ちにならないか心配です」
「人間め! ペルセポネ様をいじめたら滅ぼしてやる!」
「ふふ。ありがとう。でも大丈夫だよ? ベリアルがずっと側にいてくれるし、ハデスも少し離れた所から見守ってくれるから」
「ペルセポネ様……二日も会えないなんて……悲しくて辛くて涙が止まりません!」
おお……
本当に泣いているね。
「わたしも共にいなくなるのだが……」
ハデス……
確かにその通りだね。
「ああ! いや、あの、はい! とても寂しいです!」
ふふ。
この二人……(ケルベロスは頭が三つあるから四人かな? )の関係っておもしろいよね。
ハデスがケルベロスの事を大切に思っている事はよく分かるし、ケルベロスはハデスを怖がっているけど、それだけじゃないみたい。
「……あれ? ハデス?」
わたしに、もたれかかって眠ったみたいだね。
「ハデス様……本当に良かったです」
「え? ケルベロス? 何が良かったの?」
「眠れるようになられて良かったと思いまして。ハデス様は……冥王になる前に……天族の連中から酷い言葉を浴びせられて……元々お優しいお方ですから……」
「冥界に来られたばかりの頃は本当にかわいそうで見ていられなかった……」
「そうだな。でも姉弟仲はずっと良かったな」
「そうだったんだね……ケルベロスはハデスよりも先に冥界にいたの?」
「ハデス様が冥王になってから、冥界は変わりました。以前の冥界は……まるで牢獄でした。いつも薄暗くていたる所から悲鳴が聞こえ続けていました。ですが今は、温かく優しく、皆が穏やかに暮らしています」
「冥界はハデス様の理想の世界なのです」
「その通りだな。誰も憎み合う事の無い穏やかな世界……まさにあの時ハデス様が言った通りになった」
「あの時?」
「はい。ハデス様が初めてこの冥界に足を踏み入れた時です。今の穏やかな姿とは違いもっと殺伐とした……恐ろしい雰囲気でした」
「そうだったな。でも、すぐに分かったんです。不器用なだけで本当は優しいのだと」
「この冥界がハデス様にとって住み良い場所になるように我々も協力してきたんだ」
「……ハデスの理想の世界か。うん。そうだね。ハデスは誤解されやすいけどすごく優しいから。わたしも……ハデスの理想の世界に一緒にいられて嬉しいよ……」
ハデスは苦労したんだね。
きっと、すごく辛い思いをしながら生きてきたんだ。
天界は闇に近い力を持つハデスを認めなかったんだね。
自分自身が心を酷く痛めつけられたから、他人の心の痛みを感じ取る事ができるんだ。
だからハデスはわたしの弱った心に寄り添ってくれるんだね。