集落に代々伝わる儀式ってこういうものなの?
ん?
待って?
お母様もハデスもわたしの恥ずかしい過去を知っているっていう事は、まさか……
「ベリアルも知っているの!?」
かわいいベリアルだけには知られたくないよ!?
「ん? 知ってるぞ? ずっと前から知ってるぞ? モグモグ」
くぅぅ!
タルトを食べるベリアルも最高にかわいいっ!
じゃなくて!
「いつから知っていたの!?」
ずっと前っていつ!?
「ん? うーん。ぺるみがルゥだった時だぞ? あれは……いつだったかな? うーん。モグモグ」
わたしがルゥだった時?
「何があった時? 近い日に何があったか覚えている?」
「うーん。ルゥが『わたしは神に愛されてるから詠唱が無くてもこの世界がわたしの願いを叶えてくれる』みたいな嘘を人間相手に堂々とついていた時だな」
「う……」
よりによってそんな時にそんな恥ずかしい嘘をついていたなんて……
だからベリアルはわたしを冷たい目で見ていたのか……
あんな恥ずかしい過去があるのに、こいつ何言っているんだっていう目だったんだ……
恥ずかしいよ……
わたしのバカーー!
「まあ、落ち着け。陽太は甲冑を着て行ったんだぞ?」
……はい?
野田のおじいちゃん?
甲冑ってあの武将が着ているやつ?
「嘘だよね? そんなの着て電車に乗れたの?」
「子供だからなぁ。いやぁ……あの後しばらく口をきいてもらえなかったなぁ。あははは!」
野田のおじいちゃん!?
孫に口をきいてもらえなかったのに笑っている!?
わたしのドレスは甲冑に比べればまだ良かったのかも……
「高崎駅前のデパートに入ったら『今度は武将のお出ましだ』って笑われてなぁ。あははは!」
吉田のおじいちゃん……
なんなの?
この『誰もが一度は通る道』みたいな感じは……
あれ?
今度はって?
集落で陽太お兄ちゃんだった頃のピーちゃんの前にも誰か同じ目に遭わされていたの?
しかも、デパートの人達も『また来たか』感があるよね?
「でも、わたしは自分以外がそんな目に遭った事は知らないよ?」
「そりゃそうだ。平日、学校のある時間にこっそり行ってたからなぁ」
「……だから小学校入学前だったの?」
「いやぁ……皆あれで都会の怖さを知る事ができたんだなぁ。恥ずかしいから誰にも話せねぇしなぁ」
「はぁ!? 都会よりおじいちゃん達の方が怖いよ!?」
恥ずかしいなんてもんじゃないくらい恥ずかしいんだから!
「集落に代々受け継がれる儀式だからなぁ。ぷははっ!」
「代々!? っていう事はお父さんも!?」
「そうだぞ? デパートの人達も皆知ってる儀式だ! 星治はあの時……」
「うわあぁ! 吉田のおじちゃん!」
お父さん……
いつの間にかドラゴンの島から帰って来たんだね。
すごい勢いで阻止したね……
よほど恥ずかしい思いをさせられたんだね……
「あははは! 星治は帰って来たか。ドラゴンの赤ちゃんは大丈夫だったか?」
え?
吉田のおじいちゃん?
ドラゴンの赤ちゃんって?
「うん。大丈夫だよ? 順調にいけばあと二、三日で卵から出てきそうだよ」
あと二、三日!?
ドラゴンの赤ちゃんなんて見た事ないよ。
かわいいんだろうなぁ。
「お父さん! わたしも赤ちゃんを見に行きたいよ!」
絶対かわいいよ。
卵から出てくる瞬間を見たいよ。
「あぁ……ドラゴンは肉食だからね。ぺるみは人間から天族の身体に戻ったけど相手は赤ちゃんだからね。何があるか分からないし。少し大きくなるまで待とうね?」
肉食……
いきなり食いつかれるかもしれないっていう事か。
そういえば弟のハーピーちゃんが産まれてきた時にはすぐに肉を食べさせていたね。
何の肉かは考えないでおこう……
「うん。しばらく待つよ……」
ドラゴンは皆違う色なんだよね。
かわいいんだろうなぁ。
「あ! 天ちゃんが帰って来たぞ?」
え?
吉田のおじいちゃん?
あ、確かにコソコソしているけどあれはお父様だね。
まだヘラに捕まっていなかったんだね。
「(皆、隠れろ! 罠は完成してるからな!)」
「(おじいちゃん? 罠って? かごの中に何を入れたの?)」
「(高崎のデパートで天ちゃんが買ってきた透け透けの下着だ!)」
「(お父様は神様なんだよ? そんな罠にはかからないよ?)」
かからない……よね?
神様なんだから。
自分の父親が少しエッチな下着を触りたくて古典的な罠にかかる姿なんて見たくないよ!