消し去りたい過去を皆が知っていたなんて
「さてと……」
ん?
また吉田のおじいちゃんが何か始めるみたいだね。
今度はかなり大きいカゴを持ってきたよ。
「おじいちゃん、今度は何をするの?」
「ぺるぺるは知らねぇだろうけどなぁ、天ちゃんがヘラから逃げ続けてるんだ。ほら、ぺるぺるのちょっとエッチな下着を触ってただろ? ヘラがそれを知って怒ってなぁ」
「怒っていたのはハデスだけじゃなかったんだね」
「今日が天ちゃんの最期になるかもなぁ」
「え? さすがにそれはないよ? ヘラはお父様が大好きなんだよ?」
「うーん。かわいさ余って憎さ百倍って言葉があるくらいだからなぁ」
「……冗談だよね?」
「うーん。じいちゃんと天ちゃんは友達だからなぁ。助けてやりてぇんだ」
本当は友達じゃなくて孫だけど第三地区の皆がいるから吉田のおじいちゃんとして話しているんだね。
「でも、罠にかけてどうやって助けるの?」
「とりあえず、ヘラより先に天ちゃんを捕まえるんだ。それからヘラを落ち着かせる為に用意したプレゼントを、天ちゃんから渡させるんだ」
「え? プレゼントって? おじいちゃんが用意してくれたの?」
「うーん。ぺるぺるに渡したちょっとエッチな下着は天ちゃんに高崎のデパートで買ってきてもらったんだ」
「え? 高崎のデパートって……あの高崎のデパート?」
「ぷはっ! そうだぞ。あの駅前のデパートだ。いやぁ……あの時は笑ったなぁ! ぷはは!」
「やめてよ! もう忘れていたんだから! その話は二度としないで!」
うぅ……
まだわたしが群馬の月海だった頃……
忘れもしない……小学校入学前だよ。
田中のおじいちゃんだったお父様と吉田のおじいちゃんに高崎に遊びに連れて行ってもらえる事になったんだ。
同じ群馬でもわたしが住んでいた所は秘境の地だったから、初めての高崎にドキドキワクワクしていたんだ。
噂に聞く高崎は高いビルがあって皆ドレスを着て毎日舞踏会が開かれていて二十四時間スーパーが開いている……
そんな夢みたいな世界があるのかって前日は眠れなかったんだよね。
この日の為におじいちゃん達がピンクのドレスとティアラを準備してくれて、近所のおばあちゃんにバス停まで車で送ってもらってバスと電車を乗り継いで……二時間はかかったね。
いざ高崎駅に到着すると誰もドレスなんて着ていないし、明らかにわたしだけ浮いていて、恥ずかしくて恥ずかしくて。
吉田のおじいちゃんは大爆笑しているし、田中のおじいちゃんだったお父様は『ルーは世界一かわいいっ! 』って鼻の下を伸ばしきっているし……
その時気づいたんだよね。
吉田のおじいちゃんに騙されたって。
どうりで電車で皆に見られていたわけだよ。
秘境に産まれ育った純朴なわたしを騙して喜んでいたんだよ。
「(ぷはっ! 純朴?)」
吉田のおじいちゃん!
笑わないの!
また、わたしの心の声を聞いたんだね!?
なんとか田中のおじいちゃんに普通の服を買ってもらえる事になってデパートに入ると『あらあら今度はお姫様御一行のご来店だわ? 』とか言われて……
本当に恥ずかしかったんだから!
「晴太郎とぺるみが話してるのは、あの時の事か? ぷふっ!」
おばあちゃん……
覚えていたんだね。
忘れていて欲しかったよ。
しかも、思い出して笑っているし……
「そうだそうだ。あの時は笑ったなぁ。あははは!」
野田のおじいちゃんまで!?
もしかして皆に笑い話として伝わっているんじゃ!?
うわあぁ!
やめてよぉ!
誰が知っていて誰が知らないの!?
恥ずかしくて逃げちゃいたいよ!
「安心しろ、ぺるぺる。皆、知ってるからなぁ。ハデスちゃんもデメテルも第三地区の皆も全員知ってるぞ? ははは!」
吉田のおじいちゃん!?
嘘でしょ!?
おもしろおかしく話したんじゃないよね!?