おじいちゃん! 行かないで!
「ああ……そうだなぁ。神力がある女性が皆『聖女』って呼ばれるわけじゃねぇんだ。聖女は『優れた浄化の力を持つ者』を指す。魔素は魔族の死体から出る物だ。数千年に一度聖女が魔素を浄化すればこの世界は破滅しなくて済む計算だった。でも、前の魔族の戦の時に現れた聖女は魔素の浄化は次の代の聖女に任せて、魔族の怪我の治療を優先したんだ。もちろん浄化もしたけどなぁ」
吉田のおじいちゃんは見ていたんだね。
「ルゥの一代前の聖女?」
「いや、二代前の聖女だなぁ。聖女は大量の死体を見て思ったんだ。今浄化すれば神力を使い過ぎて自分は死ぬってなぁ。でもその後も魔族の争いは続くだろう? そうなればまたすぐに魔素が大量に発生する。次の聖女が現れるまで数千年はかかる。だから、魔族の怪我を治したんだ。『大切な人が亡くなった苦しみは分かります。ですがもう争いはやめてください』ってなぁ。聖女は傷を治すと魔族の目の前で亡くなったんだ。体内に強い魔素が大量に入り込んだんだなぁ。それから、聖女は人間の四大国の王に……棺に入れられた」
……?
棺に入れられた?
埋葬じゃなくて……?
「それから魔族は聖女を敬うようになったの?」
「そうだなぁ。他にも色々あったみてぇだぞ? 魔族はその次の代の聖女を心を込めて埋葬したしなぁ。まだルゥだった頃、さっきまで敵だったのにいきなりひざまずかれた事があっただろう?」
「あぁ……グリフォンのお兄ちゃんとウェアウルフのお兄ちゃんが幸せの島に攻撃してきた時の事?」
「さっきまで荒ぶっていた心が一瞬で穏やかになるような……そんな特別な存在。まるで……慈愛に満ちた母親のような存在。それが聖女だ」
「慈愛に満ちた母親?」
「そうだなぁ。ルゥの前の聖女達は想定外の魔素の量にやられちまったがなぁ。ルゥはぺるぺるの魂だったし、デメテルが神力を母体から与えていたからなぁ。そうでなけりゃ、前の聖女達みてぇに死んでいただろうなぁ」
「聖女が一定周期で現れるのは……戦が無い状態で魔族が亡くなって、魔素が溜まった頃……?」
「そうだなぁ。だから想定外の大きい戦があると魔素が祓いきれねぇんだ。前の聖女の時みてぇになぁ」
「もう聖女は産まれてこなくてもいいっていう事なのかな? だから最後の神力を持つルゥが亡くなったの? でも戦は無くても魔族は亡くなるし死体から魔素は出るよね?」
「ぺるぺるがいるだろう? ぺるぺるは、そこにいるだけで無意識に浄化できるからなぁ」
「え? おじいちゃん?」
「これからは聖女は産まれねぇし神力を持つ人間も今いる奴らで終わりだ。あの子の子孫を見守るじいちゃんの役目も終わる」
「……じゃあ、おじいちゃんがここにいる理由が無くなるっていう事?」
「そうだなぁ」
「どこかに行っちゃうの?」
「……そうだなぁ」
「嫌だよ! 嫌だよ! 絶対ダメ!」
天界も嫌いみたいだし、この世界にもいる理由が無くて、群馬では亡くなった事になっているんだよ?
行く場所なんて無いのに……
寂しがりやのおじいちゃんがひとりぼっちで泣いているなんて絶対ダメだよ!
想像したら涙が出てきちゃったよ。
「ぺるぺる……じいちゃんは幸せになっちゃダメなんだ。あの子を不幸にしたんだ。だから……」
「幸せになっちゃダメな人なんていないよ? おばあちゃんは? おじいちゃんを大好きなおばあちゃんが悲しんじゃうよ! わたしだって第三地区の皆だって泣いちゃうよ! お願い……お願いだから……」
「ぺるぺる……そうか……でも、じいちゃんは幸せの島から出ていくって決めたんだ。じゃあな」
おじいちゃんの空間移動の光で何も見えなくなる。
「おじいちゃん! 待って!」
目を開けるとハデスが目の前に立っている。